星間都市山脈オリュンポスIII−26


それだけの犠牲の末に絶海を突破して辿り着いたオリュンポスでは、すでに英霊たちの姿はなく、すべての人間が敵に回るという状態で、破神同盟と合流。
本物の神であるデメテル、アフロディーテ、ディオスクロイを撃破し、ヘファイストスの犠牲でアイテールを得たカルデアは、大神殿でゼウスを討ち果たした。

その後、恒星をも飲み込んだ原初神カオスを、見事に零の先を切った武蔵の奮闘によって退けた。

そして、キリシュタリアを倒し、彼に守られ、エウロペとオリュンポスの双子に見送られ、ここに至る。


「…初めて、だったんだ。自分の弱さを、共感して共有できたの。唯斗には凭れるばかりで…マンドリカルドとは弱いところを見せ合って、それでも戦おうと奮い立って、友達になれた。唯斗は仲間で、マンドリカルドは友達で…それで、マンドリカルドは、友達として、あの一撃を防いでくれた」

「うん、俺もマンドリカルドがそうやって立香に寄り添ってくれたのを見て、マンドリカルドがアトランティスに残った理由に納得した」

「コルデーは、俺なんかのこと、初恋だって…その想いだけになってでも、オデュッセウスを倒してくれた、それを覚悟して、一人で海に出て行った」

「あの海でも言ったけど、俺たちフランスの偉人を助けてくれて、ありがとな、立香」


立香は珍しく、こちらを見ないで、ずっと視線を下に向けている。唯斗の目を見ようとしないのではなく、ただ、そうしないと耐えられないものがあるのだ。


「…オリュンポスの、アデーレとマカリオスだって、きっと、この先の日々が欲しかったはずなんだ。ゼウスだって、ただ人のことを愛してくれていたんだ。キリシュタリアは…きっと…もしかしたら、俺、彼と…」

「……友達になれたと思うよ、俺も。キリシュタリアは…たぶん、立香と同じタイプのヤツだから。確証はないけど」

「っ、ぅっ、武蔵ちゃん、俺、ずっと、武蔵ちゃんに助けられて…下総も、ロシアも、一番つらいときに、助けてくれたのに…何も…なにも、できなかった…っ!」


ぽろぽろと、ついに立香の目元から零れたものが床を塗らしていく。
マンドリカルドやコルデー、武蔵、キリシュタリア、この旅で失った人たちは、立香にとってあまりに大きい存在だった。

どれほどつらいだろう。どれほど悲しいだろう。アトランティスからオリュンポスまで、立香がずっと耐えてきたものは、その感情は、どれほど立香にとって大きく、手に余るものだっただろう。

ふと、唯斗も自分の頬が濡れていることに気づく。

これは、唯斗の悲しみではないはずだ。マンドリカルドやコルデー、武蔵のことを想う立香の悲しみは、唯斗のものではないはずだ。

それなのに、なぜか唯斗まで目から零れるものがある。
さすがというべきか、目敏く気づいた立香は、自分もボロボロと水滴をこぼしながら、唯斗を見て小さく笑う。


「…っ、唯斗も、つられた?」

「お、れ…ごめん、俺が、泣くべきじゃ、ないはずなのに…立香が、どんな気持ちだろ、って…どれだけ悲しいだろ、って思ったら、なんか…ごめんな、立香、俺がこんなんなるべきじゃ、ねぇのに、」

「ちがうよ、共感してくれてるんだよ、唯斗…っ、ありがとう、唯斗、俺にそれだけ、心を寄せてくれて、ッ、あり、がとう…っ、」


共感、もちろん唯斗も知っているし、これまでも共感はたくさんしてきたと思う。けれどここまで強いものは初めてだった。
立香に心を寄せているから、同じ感情を共有して、同じ反応が起こっている、と立香は教えてくれた。また立香に教わってしまった形だ。


「ふ、っ、ぅッ、ありがと、唯斗、ありがとう…っ!、一緒にいてくれて、一緒に泣いてくれて、分かち合ってくれて、ありがとう…!」

「り、つか、」

「ふ、ぅ、ぅあああっ、ああぁッ、」

「うッ、っ、ぁああっ、」


そう言って、立香は唯斗の肩に凭れて顔を埋める。すぐに左肩が濡れた感覚がしたが、唯斗も涙が止まらなくて、立香の左肩に自分も頭を預ける。
男二人して嗚咽を漏らして泣いているなんて、誰にも見せられない情けない光景なのかもしれない。

だが、それで良かった。

この二人だけの共有が、共感が、途方もなく、大切だった。
立香とそうやって共に在れることが、本当に、嬉しかったのだ。

この涙と感情は、また次の一歩を踏み出す勇気になるのだろう。それでも今は、ただ、突き上げる慟哭に身を任せようと思う。

ここに、アトランティスとオリュンポス、大西洋異聞帯の攻略が、真に完了した。


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