残滓と余波−1
大西洋異聞帯を攻略してカルデアベースに戻ってきたときには、すでに2019年2月後半に差し掛かっていた。
3週間ほど異聞帯に滞在したことになるが、とてつもなく久しぶりにカルデアに帰ってきたような気がする。
カルデアにいる英霊たちも、大西洋異聞帯がどれほど過酷な旅だったか、例によって管制室で霊体化して見守っていた心配性英霊たちや一時召喚された者たちからの共有によって知っており、帰還すると温かく迎えてくれた。
そして翌日から、大西洋異聞帯での活動の振り返りや反省、新たな謎への議論や対策などを協議し、いつも通り、早速立香は新規召喚を行うことになる。
唯斗も非常に追い詰められ、最後には呼び出せる英霊がごく僅かになっていたものの、現地サーヴァントを立香が指揮していたことで一時召喚は唯斗が主に行っていたことによる、ということで新規召喚は見送られた。
そうして立香が行った新規召喚で応じたサーヴァントは、やはりというか、異聞帯で縁を結んだ者たちだった。
コルデー、オリオン、バーソロミュー、イアソン、千代女といったアトランティスの英霊や、ディオスクロイ、エウロペ、カイニスというオリュンポスの神霊たちもそうだ。
何より、マンドリカルドも召喚に応じたことで立香は珍しく、動揺している。
最初こそ、テンションを上げて唯斗のところにマンドリカルドを引き連れてきたが、アトランティスの記憶がないのは当然で、どうやって距離を取ろうか珍しく悩むようになっているのだ。
それはマンドリカルドも同じで、立香から聞いたアトランティスの話に半信半疑になりつつも、その上で、どのように振る舞えばいいのか分からない様子だった。
普段の立香なら、割り切って新しい関係を築こうとしただろう。それができていないのは、やはりあの海でのマンドリカルドの存在があまりに大きかったのと、あまりに犠牲の多かった大西洋異聞帯の旅によって立香の心がまだ疲弊したままだからということが理由かもしれない。
どうにかできれば、と思っていた矢先、意外にも、マンドリカルドの方から唯斗を尋ねてきた。
「あー…唯斗、いるっすか」
「マンドリカルドか?入っていいぞ」
唯斗の部屋を訪れたマンドリカルドを迎え入れる。どこか緊張した様子で、表情も強張っている。そんなに唯斗に対して恐縮することもないだろうと思うのだが、唯斗のサーヴァントの陣容を聞いてドン引きしていたこともあり、とんでもないマスターかのように思われているのかもしれない。
大事な話でなければマンドリカルドから唯斗のところに来るわけがないため、アーサーは自ら、「席を外しているよ」と退室してくれた。それにさらにかしこまりつつ、マンドリカルドはデスクチェアに腰掛け、唯斗はベッドに腰を下ろす。
「で、立香のことだよな」
「まぁ、はい。どうやって付き合ったらいいか、その、同じ陰の者から意見を…ってすんません、俺と同じ陰キャ扱いとか失礼っすよね!?」
「や、その認識で間違いないから別にいい。俺も、立香とマンドリカルドのこと気にしてたからちょうど良かった」
マンドリカルドは唯斗の返答にほっと胸をなで下ろす。そして、ぽつりと口を開いた。
「……俺は、あの海の俺のようにはなれねぇ。マスターの友達には、なれねぇんすよ」
「立香はお前と友達になりたいって?」
「いえ、はっきりと言われたわけではねぇっす。ただ、そうなりたい、って思ってくれてるような気がして…自惚れとかなら、いいんすけど」
それも間違いではないだろう。立香は、カルデアの旅において初めてできた「友達」であるマンドリカルドに特別な思い入れがあるはずだし、それを引きずっている。
一方で、立香自身、今のマンドリカルドと友達であろうと本当に思っているかと言うと、それもまた微妙なところだろう。
「…マンドリカルドはさ、アトランティスで立香がマンドリカルドを必要としていた理由、分かるか?」
「苦しい戦いで励ます友、みたいな…?自意識過剰っすかね……」
隙あらばネガティブになろうとするのは一種の陰キャ芸だが、唯斗はとりあえず話が進まないためスルーしておく。
「概ねそうだけど、補足しておく。まず一つ、カルデアに立香の友達はいない」
「…え、あんたは……」
「俺は友達っていうか、まぁ、仲間、というか…運命共同体というか…立香は俺のことバディって呼んだりするけど、お互い、友達とは思ってない。友達っていうには互いのことを知らないし、何より、命を預け合ってるからな」
共に戦い、命を預け、死線をくぐり抜け、世界を救い/滅ぼしてきた。それは友達というには近すぎるし、友達というには互いを知らない、そんな関係でのことだ。
「なるほど…」
「スタッフは大人ばかり、マシュは大切な後輩でありファーストサーヴァント。英霊たちは死した者であり、王や英雄、果ては神様だ。だから、アトランティスでマンドリカルドと出会ったのは劇的なことだったんだ」
「カルデアで初めての友達が、アトランティスの俺だった…」
「そう。加えて、あの状況だな。今までも絶望的なことはあったけど、あそこまで追い詰められたのは初めてだった。何度も全滅を予期したし、すべて自分たちの力じゃない部分で命を繋ぎ止めた。敗北に敗北を重ねて、そんな中でマンドリカルドと立香は、きっと、お互いの至らないところや弱いところを共有したんだな」