残滓と余波−4
立香が相次ぐレイシフトを行った3月、唯斗はカルデアで孔明ことエルメロイ2世とその妹ライネスの指導を受けながら、近代魔術を学んでいた。
もともと魔術師ではなく、ただ日常的に魔術を利用する「魔術使い」にあたる唯斗は、正規の魔術師からすれば唾棄すべき存在であるわけだが、唯斗の出自を知る二人は特に何を言うでもなかった。
とりわけ、今後は厳しい戦いの中で自分の身を守るために魔術の幅を広げたいという唯斗の意向も理解してくれていて、キャスターから学んだ古代ケルト呪術ではなく、時計塔の近現代理論に基づく魔術を少しだけ教わった。
魔術には「性質」と「特性」がある。
性質は5元素を基本とする魔術の種類であり、特性は性質を変化させて術式化することだ。たとえば、「地」という性質に「強化」という特性を与えると、岩のように固くなるようなものである。
原則として一人につき一つの性質を持つが、場合によっては重複、あるいはすべての元素を有するアベレージ・ワンという魔術師もいる。
唯斗は正規魔術師ではなかったため自分の性質を知らなかったが、今回、エルメロイ2世のおかげで「地」と「風」の重複であると明らかになった。数こそ少ないが、決して極めて珍しいようなことでもなく、重複であっても特に驚かれなかった。
3月はその性質と特性という魔術の基本に基づく訓練をしてもらい、サーヴァントが雑魚にかかずらうことがないよう、攻撃手段を増やしている。
唯斗は魔術訓練、立香はレイシフトと新規サーヴァントとの調整を行った3月が終わり4月になると、立香に代わって唯斗がレイシフトしてリソース回収や大西洋異聞帯によって生じた特異点の修正を行う一方、新たなダ・ヴィンチの試作品を試すレイシフトが行われることになった。
平安京から派生した中世日本の小特異点にやってきたのは、立香と唯斗のほか、ナイチンゲール、サンソン、そしてアルトリアとアーサーだ。
『ということで、今回は打ち合わせ通り、アルトリアとアーサーそれぞれにエクスカリバーを令呪3画で撃ってもらう。一気に疲弊したところで、活性アンプルを投与、副作用の様子を解析する』
通信でダ・ヴィンチがもう一度説明する。
そう、今回の試作品とは活性アンプルだ。アンプルとは薬剤を保管するガラス瓶のことで、本来は蓋をねじ切って開封することができる小さなものを指す。
ただ、今回は自己注射器があらかじめセットされたものであり、ペン型の注射器を自分で自分の太ももに刺して投薬する。
緊急時に魔術回路や筋肉を活性化して継戦能力を維持するためのものだ。
あまりに厳しい戦いが続いたこともあり、体に鞭を打つ方法を本格的に考えている、ということだ。
ナイチンゲールは立香の、サンソンは唯斗の容態を観察するためにレイシフトしている。
アルトリアとアーサーなのは、宝具解放に必要な魔力量がほぼ同じであり、なるべく立香と唯斗の条件を揃えて比較解析できるようにする意図がある。
『これも事前の打ち合わせ通りだけど、特に唯斗君は副作用が大きくなると予想している。立香君より魔術回路が発達している分、反発も大きいからね。副作用が出ないようにすると、今度は効き目がなくなってしまうし…』
「これ使うのは非常事態だ、逆にそれくらいの方がボコスカ使わなくて済む。むしろ、副作用がないからと言ってしょっちゅう使いそうな立香こそ気をつける必要があるけどな」
「信用ないなぁ」
「ミスター雨宮の指摘通りですよ司令官。副作用の有無に関わらず、これに依存しないように」
ナイチンゲールにも言われ、立香は肩を竦める。