残滓と余波−5
とりあえず話は済んだため、唯斗と立香はそれぞれ右手を構える。アーサー、アルトリアも聖剣を構えた。
同時に、唯斗と立香は令呪を2騎にそれぞれ3画分送った。命令という形をわざわざ取る必要もなく、単に魔力を一気に消費することが目的のため、純粋に魔力を送っただけだ。
過剰に魔力を送られた二人のアーサー王は、少しだけ苦しそうにしつつも、すぐにエクスカリバーから魔力を放出した。
ごく軽く宝具を解放してもらっているが、それでも、光線が森を焼き払い山を蒸発させる爆音と轟音が空に響き渡る。
唯斗と立香は、その衝撃波を受けつつ、それとは別の理由でよろめく。当然、急性魔力欠乏だ。
唯斗はペン型注射器を握ると、右足の太ももに押し当てる。立香も同時に注射を行った。
力は自然に籠めることができ、形状はまったく問題ない。さすがダ・ヴィンチだ。針の痛みもそこまでのものではなかった。
チクリという鋭い痛みとともに、活性剤が投与される。
何か起こるか、と身構えた、そのとき。
「…っ、ぐッ、!?」
「マスター!」
慌ててサンソンが駆け寄り、地面に膝を着く唯斗を支える。離れたところで聖剣を解放していたアーサーも、瞬時に跳躍して唯斗の傍にやってきた。
「大丈夫かい?!」
「ふ…ッ、ぐ、ぁっ、くぅ…ッ、」
魔術回路が熱を持ったように熱く、鋭い痛みが走る。全身が筋肉痛になるような感覚とともに、吐き気と目眩、激しい頭痛が押し寄せた。
「唯斗、大丈夫!?」
けろりとした様子の立香も心配そうにこちらを見つめている。頭が割れるように痛く、魔術回路は火花を散らすのではないというほどに熱いため、とてもではないが呼びかけには応えられない。
必死にサンソンのシャツを掴んで体を預け、痛みと苦しみが引くまで待つ。
次第に熱と痛みは引いていき、代わりに、魔力と気力、体力が漲るような感覚がやってくる。だんだんと、頭痛から心地よい感覚に変化していき、目眩は引いて視界がクリアになり、吐き気もなくなり思考が明瞭になる。魔術回路は熱が引いて快調となっているようだ。
「は…っ、はっ、大丈夫、副作用は引いた」
『バイタル安定、筋力、体力、気力、魔力いずれも完全適正値。うん、結果だけ見れば極めて良く効いているが…予想より副作用が激しいな。いったん全員帰還レイシフトするよ、その特異点はエクスカリバーで崩壊するからね』
ダ・ヴィンチはとりあえず帰還レイシフトを始める。体から五感が引いていく霊子変換が開始され、湿度の高い日本の空気から、乾いたカルデアへと戻っていく。
そうして、全員の帰還が完了してコフィンから出ると、管制室からダ・ヴィンチもやってきた。コフィンから出る頃にはすっかり元気になった唯斗だったが、反してアーサーの表情は険しい。
「ダ・ヴィンチ女史、とてもじゃないがこんなもの、マスターに使わせられない」
そしてやはり、アーサーはいの一番に活性アンプルの使用を拒絶した。ナイチンゲールは淡々と立香のバイタルを記録しており、サンソンはこちらに意識を向けながら同じくタブレットに記入を行っていく。
ダ・ヴィンチは難しい顔で、観測されたバイタル数値を見つめた。
「うーん…立香君はオールOK、これから使って問題なし。だけどやっぱり唯斗君は…そうだね、毎回この副作用が出るというのは…しかしこれ以上、効力を落とすともはや持って行く意味がないな…」
「…さっきも言ったけど、これは非常事態かつ連戦に僅かでも備える時間があるときしか使わない代物だ。しょっちゅう使うわけでもないし、戦闘中に使用するものでもないから、俺は実用に足るものだと思うけど。事実、めちゃくちゃ調子いいし」
「駄目だマスター、先ほどの副作用はあまりにひどいものだった」
アーサーは頑として頷かないが、ダ・ヴィンチも唯斗の意見に賛同する。
「私としても、唯斗君の意見に賛成だ。唯斗君の場合は立香君ほど使う頻度がそもそも多くないし、時間に余裕がある状態でしか使わない。それならこれくらいの副作用は許容範囲内かな」
「どこが許容範囲内だというんだ、今にも喀血しそうなほどだったというのに」
そこに、タブレットの記載を終えたサンソンが顔を上げる。
「いえ、副作用は確かに激しかったですが、循環器、呼吸器ともに問題ありません。もちろん、1日に複数回使うのは問題ですが、レイシフト中に1回、というくらいなら問題なく使用できるでしょう」
「ほらアーサー、ドクターOKも出た」