残滓と余波−6
反論しているのは自分だけとなったことで、アーサーは押し黙る。だが顔には納得いかないとありありと書いてあった。
「…そもそも、動けないなら僕が運ぶし、魔力が足りないなら僕が供給すればいい」
「それができない状況を想定してるんだろ。たとえば一人になったときとか」
「一人になるときなんて想定しなくていいだろう、必要ない。僕が許さない」
「アーサーがどうってことじゃなくて、仕方なくそうならざるを得ないときがあるだろ」
「いいや、君を一人にするのはあまりに危なっかしい。オリュンポスでだって、たまたま無事だっただけだろう」
どうやら、オリュンポスでの単独行動を未だに根に持っているらしい。結果的に立香たちと合流できたが、アーサーとしてはそれはあまりに危険な行いだったという。
「ちょっと過保護すぎだろ。オリュンポスでも、自分が行けないなら俺にボーダーに残れなんて言いやがって」
「藤丸君にはマシュがいる、でも君は一人だ。だから反対した。なんで君はそうやって自分一人になることや無理して戦い続ける選択肢を選ぼうとするんだい?」
「好き好んでそうしてるわけじゃないだろ。結果的にそうなっただけだ。あんまり危険だったら俺だって引っ込んでる」
「いいや。それならデメテルの爆撃が始まったときにボーダーに戻っていたはずだ。そうしなかったのは自分を省みていなかったからだ」
「あの状況で立香たちを放っておけるわけなかっただろ。つか、お前さっきからマジでなんなんだよ、俺はそんな頼りねぇって?オリュンポスで探索出発するときも、ロシアでカドックたちと戦うときも、腑抜けたこと言ってたよな」
さすがに唯斗もイライラとする。アーサーも苛立っているが、ここにきてあまりに過保護で唯斗への信のない言動に唯斗とて頭にくる。
オリュンポスでもロシアでも、唯斗のことを重要視しすぎるあまりアーサー王らしくないことを言っていた。
それを腑抜けたことだと言った唯斗に、アーサーもカチンときたようだ。
「…それは違うな。君が向こう見ずなだけだ。まったく、前のマスターも後から戦えるようになった魔術師だったけど、守られるべきときはきちんと守られてくれた。藤丸君だって深追いせずにきちんと守られるべき時を踏まえている。なんでそんなこともできないんだ」
「っ、」
唯斗は息を飲む。あまりにダイレクトに言葉が刺さった。視界の隅で、立香やダ・ヴィンチが諫めようと身を乗り出したが、その前に唯斗は口を開いていた。
「じゃあ前のマスターのいる世界に戻ればいいだろ!」
「そういうことじゃないだろう、問題を矮小化するのはやめなさい」
「つか説教すんな!」
「説教くらいするよ、私は君より長く生きたんだから」
「長く生きただけだろうが!お前はただの『王』であって人間として、大人として長く生きたわけじゃない!そんなヤツが説教垂れんな!!」
「っ、君こそ聞き分けのないことを言うんじゃない、王だろうと民だろうと普遍的な話だろう!」
ついにアーサーまで声を荒げたところで、ダ・ヴィンチが「ストップ!」と割って入った。可憐な少女の姿で呆れた様子をされるのは、こちらをひどく冷静にさせる。
「まったく、まさか君たちがそんな口げんかをするとはね。いや、痴話喧嘩かな?」
「…チッ」
唯斗は盛大に舌打ちをしてから、つかつかとその場を後にする。ひどいことを言ってしまいそうになったからだ。これ以上、この場に留まると本当に人を傷つけてしまう。
管制室を出て廊下を歩き出せば、徐々に、今の会話がどのようなものだったが客観的に思い出される。
「……喧嘩。俺とアーサーが」
思わず口に出てしまった。それほど、衝撃的な出来事だった。