残滓と余波−7


唯斗とアーサーが盛大に口喧嘩をした、というのは、狭いカルデアではあっという間に知れ渡っているようだった。
多くの場合、面白がっているだけだったが、アキレウスは「俺にしとくか?」とすかさず口説きに来ている。良くも悪くも英傑たちのノリということだろうし、唯斗もそれは気にしていない。ただ、アキレウスには肘打ちをしておいた。

その夜、食堂で立香、マシュとともに夕食を取っていると、やはりというか、話を聞きつけたガウェインがやってきた。


「失礼します、マスター」

「どうした、ガウェイン」


手を止めてガウェインを見上げると、ガウェインは一瞬だけ言い淀んでから、言いづらそうに切り出した。


「その…異世界の我が王についてなのですが。口論に及ばれたとお聞きしております。お二人のことです、きっとすれ違いでしょうから、腰を据えてじっくり王の話をお聞きになっては…」

「…ところでガウェイン。今日はアーサーと会ったか?」

「?い、いえ」

「このあと会う予定は?」

「特にはございませんが…」


そう言ったところで、唯斗はじとりとガウェインを睨み上げた。ガウェインはその視線に肩を揺らす。


「つまり、お前は俺にだけ提言しに来たんだな?俺に、アーサーの話をちゃんと聞けと、一方的に言いに来た、ってことだよな?」

「い、いえ、それは、その、」


途端に動揺するガウェインに、沈静化していた苛立ちが一気に戻ってきて、思わず立ち上がる。ガウェインは一歩後ずさったが、逃がさないとばかりにその逞しい胸板から胸ぐらを掴んだ。


「マスターッ、」

「要は、お前、俺が悪いって思ってんだろ?なァ!?結局お前はアーサー王に無条件で味方するってことだよなァ?!」

「も、申し訳ありません、そのような…っ、」


不良よろしく恫喝する唯斗に食堂中から視線が向けられる。とりあえず、手が疲れそうなのでとっとと手を離して、唯斗はガウェインを思いきり睨み付けた。
それを受けて、ガウェインは視線を落とす。


「その、確かに短慮でした、謝罪いたします」

「つかそれが謝る頭の高さかよ?」

「申し訳ありません!」


がばりと膝を着いて頭を垂れるガウェインを見下ろしてから、ついでにすぐ近くにいたディルムッドにも視線を向ける。


「おいディルムッド」

「!?!?はっ!!」


ディルムッドは突然のことでも速やかに立ち上がり、同様に通路で膝を着いて応じる。


「お前はどっちが悪いと思ってんだ」

「騎士王ですとも!100%マスターが正しいです!!」

「そうだよなァ!?」

「そうです!!!」

「さすがディルムッドだ」

「ありがたき幸せ…!」


あちこちから噴き出す音が聞こえてくる。
どこからか「マスター全肯定bot芸人」という不名誉な声が聞こえてきたが、ディルムッドはそれどころではないのか反応していない。
とりあえず、恍惚とした様子で唯斗の右手の甲にキスを落としてから席に戻ったディルムッドを見届けて、再びガウェインに視線を戻す。


「それでガウェイン。今から何をするべきか分かるな?」

「…と、申しますと」

「俺はせっかく落ち着いてたのにお前のせいでめちゃくちゃイライラしている」

「も、申し訳ございません!」

「このストレスの解消には甘いものが必要だ」

「!お任せを!!」


ガウェインはすっと立ち上がると、3秒で厨房から小ぶりなプリンを持ってきた。食後の唯斗の胃袋でも入るような量で持ってきたのはさすがである。

唯斗は椅子に座り直してから、すぐ傍に控えるガウェインの分厚い腹筋に軽く頭突きした。


「っ、マスター…?」


ぐりぐりと額を押しつけてから、顔を離してそっと見上げる。


「…ごめん、八つ当たりだ。別に、俺とアーサーどっちが悪いとかじゃないの、分かってるんだ。ごめんな」


唯斗の言葉を聞いてから、ガウェインはきょとんとしたあと、ふっと破顔する。


「…いいえ。あなたから頂戴できるものなら、どんなことでも光栄です。むしろ、そんな愛らしいことをされては役得というもの」

「あんま甘やかすと図に乗るぞ」

「大いに結構ですとも」


頭を撫でられて、唯斗はあらぶっていた感情がすぐに戻るのを感じる。感情が波立ったのも、単なるアーサーへの苛立ちなどではなくなっていて、どうやっていわゆる「仲直り」をすればいいのか分からないことへの不安や、唯斗から謝って解決することへの抵抗感などによるものだった。

どこまでガウェインが理解しているかは分からないが、正直、これが特別な感情だとは思っていない。恐らく普遍的で、だからこそ、立香や周りの英霊たちやスタッフたちも何も言ってこないのだ。どこか生暖かいような目をしているのがその証である。面白がっていた英霊たちだって、笑いつつも、特にロビンやランサーなど古参の者たちは安心したような色も浮かべていたものだ。
そう、そんな、なんでもないことなのだろうとは、唯斗だって分かっている。それでも感情が追いつかないため、しばらくは、仲直りなるプロセスはせずアーサーと距離を置いておこうと思った。


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