永久凍土帝国アナスタシアI−12
ボーダーが浮上したのは、旧スモレンスク州のドニエプル川付近のベラルーシ国境あたりであり、そこから叛逆軍の砦がある旧トヴェリ州ベールイ近郊まで100キロ以上がある。しかしアヴィケブロンの高速機動ゴーレムによって、長大なロシアの大地も迅速に動くことができていた。
そうしてその日のうちに砦に戻り、そこでアタランテからサーヴァントが他にもいるという情報を得て、協力を求めるべく話をつけに行くことになった。
砦からとんぼ返りするように、今度は南の旧カルーガ州スパス=ジェメンスクにあたる村へと高速で移動しつつ、道中で狩った魔獣は食料として回収するという工程となっている。
アヴィケブロン本人は砦に残り、ゴーレムが移動役として着いてきている。
さすがに200キロほどの距離であるため、途中で一夜を明かすことになり、適当な洞穴で寒い夜を過ごすこととなった。
道中で殺した魔獣を捌くが、唯斗はパツシィの手伝いを買って出た。
「お前、旧種なのに捌けんのかよ」
「基本構造が分かれば応用は利く。この魔獣特有の事項だけ教えてくれ」
「分かった」
地面に横たえたクリチャーチに、唯斗は躊躇いなくサバイバルナイフを突き立て、強化をかけて真横に引き裂く。普通の腕力ではこうはいかなかった。
引き裂かれたことで、体の内側から外側に向かって気圧に釣り合うように発生する内圧が穴から噴き出し、一気に臓物や血管が飛び出てくる。赤い血が広がり、途端に匂いが立ちこめた。
立香は口元を手で押さえている。
「っ、こりゃ、専用の薬草がないと臭い消しはできないな」
「あぁ。ここに来るまでに用意してある。塩と一緒に水に浸すんだ」
「なるほど…茹でたりはするか?」
「たまに魔猪が捕れたときはそうするが、クリチャーチは熱湯で煮ても匂いは取れねぇ」
慣れたように会話しながら、唯斗は着々と骨から肉を剥がして筋に沿って裁断し、血管から出せる血液はすべて出して太い筋はナイフで切り取っていく。
臓物は革袋に入れて魔獣の注意を逸らす匂い袋にするそうだ。
「…やけに手慣れてるな。狩りの経験でも?」
アタランテも唯斗手さばきを感心したように眺めた。パツシィも「なかなかやるな」と褒めてくれた。
肉のブロックをパツシィに渡しながら、唯斗はようやく、あのときの賢王の意図を知った。
「……俺のサーヴァントに千里眼を持っているヤツがいたんだ。当時は何も教えてくれなかったけど、俺に、いざというときに備えてサバイバル術を教われって、いろんな英霊の手ほどきを受けさせられた。いろんな動物を捌ける。今にして思えば、あの人はこの事態をある程度予想してたんだな」
「っ、そうか…ギルガメッシュ王は、それで…」
洞窟の壁に凭れて聞いていたアーサーも合点がいったようにする。
ギルガメッシュは、アガルタでアーラシュに唯斗を指導するよう指示して、ウサギを狩るところから始めた。なぜあんなことをギルガメッシュがしたのか、ずっと詳細な理由は分からないままだったが、ギルガメッシュが唯斗を守るために取った手段だということだけは当時から分かっていた。
アガルタ以降もいろいろと教わるよう、ディルムッドやサンソン、アキレウスなどにギルガメッシュは指示していた。
ギルガメッシュが遅くまで残ってカルデアの手伝いをしていたのも、ある程度、この事態を予想していたからだ。
ギルガメッシュの未来視は、見ようと思って見られるものではないため、ギルガメッシュ自身、深くこの事態を見抜いていたわけではないだろう。その上で、最善の選択を取った。
今この場にギルガメッシュはいないし、アーサー以外の自分のサーヴァントもいない。だが確かに、守られている、と感じられた。それだけで、心が温かく、足に力が入るようだった。