残滓と余波−9
「まず質問です。あなたは、唯斗を守りたいが故に傍にいるべきだと考えているのですか?」
「あぁ、その通りだ」
「そもそもそこからです。彼を守ることと、あなたが傍にいること、それはイコールではありません」
「…?」
「あなただけが彼を守る存在である必要はない、ということです」
アルトリアは言葉を言い換えた。唯斗を守るのはアーサーだけである必要はない、それは当然のことのはずだが、アーサーは言葉が詰まる。当然だ、と言えない。
「むしろ、あなたしか彼を守れない状態の方が問題です。だからこそ彼は自衛手段を増やし、活性アンプルによる行動能力の最大化を担保しようとしている。至極真っ当な考え方です」
「…しかし、正規魔術師でもないマスター一人でなど……」
「それも同意します。なるべくあなたが守る立場にいた方がいいのは確かです。しかしそれに拘っては本末転倒。特異点にしろ異聞帯にしろ、機を逸することはマスターたちの命に直結する事態を招きます」
淡々とアルトリアは正論を述べる。確かにそうだ、なにもアーサーだけが唯斗を守る必要はなく唯斗自身、あるいは現地サーヴァントや一時召喚のサーヴァントでもいい。そういう意味では、あらゆる選択肢を用意できるよう、活性アンプルを持っておくのは極めて自然なことだ。
それでも、と否定したい気持ちがわき上がる。否定できる根拠も論拠もないはずなのに、否定しようという目的だけが先行してくるのだ。
それにもやもやとしていると、アルトリアは苦笑する。
「あなたは守るために傍にいたいのではなく…ただ、彼を目に見える場所に留めておきたいのでしょう」
「っ、!」
「サーヴァントがマスターに向ける感情ではありませんが…恋人に向ける感情としてはごく自然なことなのでは?あなたも異世界のブリテン王とはいえ私です、きっと、私と同じただの王という機構であったのでしょう。だから、あり得ないと最初から考えもしなかったでしょうが。あなたは、単に、私情を混ぜてしまっているだけなのですよ」
「な、アーサー王が私情を…!?」
「そんな…」
ガウェインとランスロットの方が驚愕を浮かべているが、アーサーは息を飲みつつも、その言葉があまりにしっくりと来てしまっていた。
守りたいから一人にしたくないのではなく、単に、アーサーが唯斗を傍に置いておきたいだけ。そんなしょうもないことを、この自分が考えるなんて、と信じられないようで、その通りだと納得している自分もいた。
すると、ポロンと竪琴の音が軽く響き渡る。トリスタンが感情を露わにするときの合図だ。トリスタンは無意識に弾いた弦を止め、言葉を紡ぐ。
「私は…嬉しい……アーサー王が、己の感情を揺らしていることが…それで、いいのです…ここはブリテンではなく、あなたはこの場所の王ではないのですから…思うに…異世界の我が王、あなたは、焦りを感じているのでは…?」
「…焦り」
トリスタンの指摘を引き継ぐようにアルトリアが頷く。
「トリスタン卿の言うとおり。あなたは焦っている。唯斗はそれだけ、めざましい成長を遂げているのですから」
アルトリアの言葉で、ガウェインとランスロットも理解したらしい。なるほど、と頷いていた。ガウェインは顎に手をやって納得の表情を浮かべる。
「確かに、マスターは著しい速さで成長しています。オリュンポスでも見事に市民に扮して情報収集を行い、異聞帯における情報収集プロセスでは大きな役割を果たしています。個人の戦闘能力も上がり、一方で得られた力で慢心することなく、己の引き際を弁えてサーヴァントを頼る。今も、近代魔術によって能力は向上し、コミュニケーション能力も見違えるようになりました」