残滓と余波−10


ガウェインの言うとおり、唯斗はロシア、北欧、中国、インド、そしてオリュンポスでも現地の人々とのコミュニケーションをそつなくこなし、情報収集を円滑に行ってきた。単独行動がある程度できるほどまでに戦闘能力、行動能力、支援魔術を強化しており、今もエルメロイ2世たちの授業でめきめきと成長している。

アーサーだけが唯斗を守る立場である必要がないように、唯斗はそもそも、アーサーがいなくてもどうにかなる場面が非常に多くなっているのだ。
それを無意識に理解して、アーサーは焦りを感じていた。このまま手の届かないところへ走ってしまうのではないか、どんどんアーサーを必要としなくなるのではないかと。


「……なるほど。私はみっともなく、生者として成長をする彼に縋るようにして、傍に置き留めようとしていたのか」

「王よ…そんなことは…」

「あるのですよ卿ら。異世界の私とて甘やかさないように。身勝手な感傷で生者の成長を阻害しようとしただけでなく、彼を傷つけるような、我々のマスターや過去のマスターと比べる発言をして激高させたのです。王として長く生きただけで人間として長く生きたわけでもないのに説教するな、というのは、まさに的を射た言葉でした」

「……返す言葉もないな」


あまりに幼稚な話だ。まさか自分がそんなくだらない考え方をしていたとは。唯斗の言うとおり、結局のところ人間として長生きしたわけではないアーサーは、ご高説を垂れることができるほど、人間的な成長や経験をしていないのだ。
それでも唯斗よりはそうした経験があったわけだが、生者である唯斗はこの旅でアーサーのそれ以上に成長した。恐らく、人間的な部分だけ見れば、アーサーと唯斗はほとんど同じなのだ。
それをようやく理解して恥ずかしく思っていたアーサーだったが、アルトリアはふと、優しく微笑む。


「…けれど、そうですね。王という機構でしかなかった自分(あなた)が、そのように感情を揺らして、対等に口喧嘩までする。その事実に、嬉しいと感じている自分(わたし)もいます。トリスタン卿が言っていたように、それでいいのですよ。そういう相手は…とても、とても愛おしく、大切なのです」

「我が王…」


この世界の騎士たちも驚いている。アーサーも、そのアルトリアの笑みに驚いた。
ああ、この世界の自分も、どこかの現界で、そんな相手に出会えていたのか。そう理解してアーサーは表情を緩める。
彼女がそう言ってくれるのなら、このしょうもない感情も、きっととても大切なものだ。

SE.RA.PHやセイレムでアーサーを守り、ロシアでアーサーを叱咤し、そしてオリュンポスでアフロディーテからアーサーを守って導いてくれた唯斗であっても、唯斗はアーサーを必要だと言ってくれている。それに疑いの気持ちはない。
ただ、アーサーも同じかそれ以上に唯斗を必要だと思っているのだということを、いまいち唯斗も理解しきれていないかもしれなかった。


「今まで守りたい、という言葉でしか伝えてこなかった。自分でもそう思っていたから。けれど、そうだね。謝るときに、ただ、君の傍にいたかったんだということを、素直に伝えるとしよう。礼を言うよアルトリア、そしてこの世界の円卓の騎士たちよ」


こんな話を円卓の騎士にする日が来るとは思わなかったし、鏡のような存在であるアルトリアを通して自分の感情に向き合うことになるとも思わなかった。だが、それこそが、このカルデアの旅路がもたらした縁の奇跡なのだろう。


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