残滓と余波−11


アーサーと喧嘩をした日の夜は、不寝番として例外的にサンソンが入ってくれていた。
そのまま朝を迎え、サンソンとともに朝食を取り、ついでにサンソンが予定通りオリュンポス後に定期的に行われている帰還後検診を行って昼も近くなった。

そんなとき、管制室から微小特異点が観測されたと連絡が入り、唯斗はサンソンとともに管制室に向かうことにした。医務室と管制室は近いため、廊下に出てゆっくり歩き始めたが、そこにアーサーがやってきた。


「ああ、マスター。特異点が見つかったというアナウンスは聞いていた。僕も同行していいかい?」


普段なら、言うまでもなくアーサーを一緒に連れて行っていた。しかし、まだ仲直りとやらをしていないし、なんなら唯斗は自分から謝るつもりはなかったため、ついむすっとした表情になる。


「…いや、微小特異点って話だし、サンソンとレイシフトするからいい」

「っ、」


アーサーはまだ唯斗が怒っていると理解して、慌てたように至近距離に近づくと唯斗の手を掴む。


「マスター、その、僕が悪かった。だからせめてレイシフトは一緒に、」

「…別に大きな特異点でもない、アーサーと一緒に行かないケースだってたくさんあるだろ。それと同じだ」

「すまない唯斗、僕はただ、少しでも君を…」


それでも食い下がるアーサーに、唯斗はガウェインに続き三度目となる頭への血の急激な上昇を知覚する。

唯斗はアーサーの手を思い切り振り払うと距離を取り、そしてアーサーの足下に強めのガンドを放った。銃弾のようなそれは床を抉り、アーサーの動きを止める。飛び散った破片が散らばる小さな音が止んだところで、唯斗はにっこりと微笑んだ。


「アーサー、俺は、とても怒っています」

「……すまな…すみません………」


肩を揺らしたアーサーに、唯斗はため息をついてから、手を上げて指を三本立てる。


「謝罪の3要件って知ってるか、アーサー。謝罪を構成するべき3つのポイントだ。1つめ、責任の所在の明確化。2つめ、損失の補填や補償。そして3つめ、相手の感情に寄り添うこと。さてアーサーに質問です。今のお前の謝罪は、この3つのうち、どれだけ満たしてた?」

「…、え、と……」

「こ、た、え、ろ」

「何も満たしていませんでした…」

「そうだよなァ?言うに事欠いて自分の主張を優先しようとまでしたなァ?」


強いて言えば「自分が悪かった」とまでは言っていたが、何が悪かったのか言っていないため不十分だ。
唯斗はそろそろ管制室に向かわないといけないため、踵を返す。


「じゃ、帰還したら出直せ。行こうサンソン」

「はい、マスター」


アーサーをその場に放置して歩き出す。しばらく歩いて管制室を目前にしたあたりで、ついに唯斗はサンソンに口を開く。


「なぁ…しゅんとしてたアーサー、めっちゃ可愛かったな」

「え」


ばっとサンソンは驚いたようにこちらを見下ろす。正直あのまま数分でも留まっていたら、しゅんとするアーサーにこちらが負けて許してしまっていた。危なかった。


「はぁ…正直今のアーサーなら抱ける……」

「…その…マスターもなかなか、吹っ切れたと言いますか…隠さなくなりましたね」

「照れとか恥とか、そういうの感じるハードル上がったかもな。今までどんだけ恥かかされてきたんだって話だし、もう今更だろ」

「3年半、という月日の長さを実感しました…」


とはいえ、アーサーが少しでも本気を出して迫ってくれば途端に唯斗はたじろぐだろう。所詮は一時的な優位だ。というか、すでに意志が揺らぐほどアーサーの様子に心を打たれている時点で、まさに「喧嘩両成敗」なのである。


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