残滓と余波−16
「…なるほどな。その焦りから傍にいようとする気持ちが強まって、それを守りたいという感情だと自分で勘違いしていたと」
「……その通りだ」
「え、そんな理由で俺、過去のマスターや立香と比べられるとかいうわりと結構ひどいこと言われたわけ?」
「…本当にすまない…とても傷ついてしまっただろう、こんな、僕は世界で一番大切な人に心ない言葉を……」
審判を待つような青い顔で俯くアーサー。どうしたものか、と唯斗は思案する。
正直、めちゃくちゃ可愛い。
この騎士王あざとすぎないか、と真剣に思ってしまうくらいには、唯斗はアーサーの言葉に心臓がぎゅんぎゅんしていた。頭が悪くなったような気もするが、こちらもアーサーのためなら血まみれになってアフロディーテからの攻撃に耐えたくらいなのだ。
「…一通り理解した。さてアーサー、俺がレイシフト前に言った謝罪の3要件、覚えてるな?」
「…もちろん」
「責任の所在と相手の感情に寄り添うという2つはクリアしてる。じゃあ残る1つ、損失の補填や賠償については?」
「…金銭的な関係ではないからね、僕にできることなら、なんでもする」
「なんでも?」
「あぁ」
きっぱりとそう言ったアーサー。唯斗は努めて冷静を装う。
「…それならさ、今晩は俺が抱かせろっつったら抱かれてくれるよな?」
「…っ!?なっ、!?あ、いや、も、もちろん、君が望むなら、その、もちろんだとも!」
唯斗の要求に対して、アーサーは一瞬何を言われたか分からないというような表情をしてから、目を丸くした。
そして仰天して、激しく動揺しながら、顔を引き攣らせて頷く。ここまでアーサーが驚いて焦っているのもなかなかない。
そこで耐えきれず、唯斗は噴き出した。
「…ぶはっ、あはははっ、おまえ、なんだその顔、くくっ、」
腹を抱えて笑うなど、人生で初めてかもしれない。それくらい笑ってから、唯斗はそのままアーサーに思い切り抱きついた。
当然、ぐらつくこともなく唯斗を受け止めたアーサーはきょとんとしている。
「え、えと、唯斗…?」
「あー笑った…お前、マジで俺のこと大好きだよな」
「……うん、当然だよ。世界で一番愛している。大切なんだ」
疑ったことなどなかったが、改めてこうしてアーサーがどれだけ唯斗のことを愛しているのか実感してしまう。
その甘い声音はあまりに真摯なもので、もとから許していた唯斗だったが、もうこれ以上は責めるつもりにはならなかった。
「知ってるよ。つか、さっきの冗談だからな。別にアーサーのこと抱きたいとか思ったことないし。抱けると思ったことはあっても」
「そうなのかい?いや、本当に君が望むなら僕は受け入れるけれど」
唯斗が気を遣っていると思ったのか、アーサーはそう付け加えるが、唯斗は首を横に振る。そして、唯斗の背中に腕を回して抱き締めるその二の腕に、頭をこつ、と乗せてアーサーを見上げる。
「いいよ。アーサーに求められて支配されてる感覚に勝る気持ち良さねぇし?」
「っ、君は本当に…っ」
ごくりと生唾を飲み込む音がここまで聞こえてくる。いい具合に煽ることはできたようだ。
「これはたくさん甘やかしてもらわねぇとなぁ」
「…あぁ、ドロッドロに甘やかしてあげよう」
耳元で囁かれ、唯斗はぴくりとしてアーサーの肩に顔を埋める。抱き締める腕が少し強くなり、後頭部に手が回ってぞくりと背筋が震えた。
そのままベッドまで連れて行かれると、ゆっくりとシーツに倒される。いつも通りアーサー越しに天井が見える位置になり、キスが落とされる。
しかしそこで、アーサーはいつもと違うことを言いだした。
「…そうだ、今日は僕がご奉仕しようか」
「……ん?」