永久凍土帝国アナスタシアI−14


その日のうちに砦を出発し、翌日にはヤガ・スモレンスクに到着した。
皇帝派でもあるため、市民同士の諍いは口論レベルであっても頻発しており、かなりギリギリだ。

なんとかアタランテが市長を説得し、貯蔵の5割を確保できたと思ったのもつかの間、最悪のタイミングでオプリチニキの増兵がやってきた。
この町は大きい、オプリチニキを市街地の外で迎撃したとしても市内に侵入されるだろう。そうなれば、オプリチニキと叛逆軍に挟まれてスモレンスク市民に犠牲者が出るし、スモレンスク市民も応戦しようと武器を持ってくる。

アヴィケブロンは何やら大がかりな術式の準備をしているため、こちらの戦力はカルデアとビリー、アタランテだ。
大規模な戦闘をする火力が一時召喚で呼び出せる立香が市街地の外に向かった方がいいだろう。


「立香、町の外で迎撃してくれ。ビリーも!俺とアーサー、アタランテで市内の混乱を抑える!」

「分かった、行こうビリー!」

「任せたよ!」


立香とビリーは市街地の外へと向かい、すぐに大規模な爆発音が響いてきた。恐らく天草の宝具だろう。
一方、すぐに市内へもオプリチニキが入ってくる。早速、叛逆軍のヤガに鎌を振り下ろそうとするオプリチニキに唯斗はガンドを放ったが、怯むことすらなかった。明らかに耐久性が増している。

ベオウルフが言っていた、モスクワに近いエリアに展開するオプリチニキかもしれない。


「っ、アーサー!」

「承知した!」


アーサーはすぐにそのオプリチニキの方へと向かい、剣によって吹き飛ばす。しかしオプリチニキは飛ばされた先で着地し、さらに継戦する。


「アタランテ、このオプリチニキは首都方面の強化型だ!」

「なに?!分かった!」


想定外があったとすれば、オプリチニキが増えただけでなく、強い個体が現れたということだ。これでは予定していた1体当たりの掃討時間が格段にかかってしまう。
その隙が、集団を暴走させてしまいかねない。

唯斗は建物を背中にして周囲を念入りに観察する。アーサーの様子を見るのはもちろんだが、ヤガたちが暴走しないか、その兆候を発見しなければならない。

早速、一人の叛逆軍が市民に銃を向けた。オプリチニキから命からがら逃げだし、前に現れたヤガにも銃口を向けたのだ。市民は非武装だ。


「っ、待て!」


唯斗は慌てて声をかけながら、市民に結界を展開させる。銃弾は防がれ、叛逆軍も相手が非武装だと気づいたようだ。


「あ…俺、」

「箒がライフルに見えただけだ、大丈夫。あんたらもさっさと屋内に隠れろ」

「くそ、旧種のくせに…!」


ヤガたちはすぐに近くの住宅内に避難した。叛逆軍のヤガは冷静になれたようで、周囲の混戦具合に引いたようにする。


「…あんたらの言っていた虐殺、ってのは、こういうことか」

「まだギリギリそこまでいってないってだけだ。自信がないなら遮蔽物の後ろから落ち着いて狙え、そうすれば見えるものがちゃんと見えるようになる」

「……そうするよ」


ヤガは旧種である唯斗に言われたことに憮然としつつも、素直にアドバイスを聞いて近くの壊れた馬車の幌越しに狙撃を開始した。

確かに通りは混戦状態だが、スモレンスク市民は早々に逃げ出しており、主な戦闘は叛逆軍とオプリチニキのものだ。


「皇帝に叛逆する者を発見、排除する」

「ッ!」


そこに、後ろからぞわりとした悪寒が走った。
咄嗟に、唯斗はその場を飛び退いて離れたが、同じタイミングで巨大な鎌が横に振り払われていた。
その切っ先が僅かに右足を掠め、鮮血が雪に飛び散る。


「いっ…!」

「マスター!」


すかさず、アーサーが唯斗とオプリチニキの間に滑り込み、唯斗に迫る個体を切り裂いた。消失したオプリチニキを確認して、アーサーはすぐにこちらを振り返る。


「大丈夫かいマスター!すまない、怪我をさせてしまった」

「これくらい誤差だ。それよりまだ…って、」


まだ油断はできない、と思ったところに、突如として大量のゴーレムが出現した。家屋の石材がゴーレムとなり、建物が崩壊していくが、ゴーレムは叛逆軍からも市民からも武器を押収して攻撃手段をなくし、オプリチニキを迎撃する。


「…そうか、アヴィケブロンは、武装解除をオプリチニキの攻撃をプログラムしてたのか。すげぇな……」


どうやらアヴィケブロンは極めて高度なプログラムを設定していたようで、しかもそれがこれだけの数に及んでいることから、時間がかかっていたようだ。
これなら、ゴーレムだけで場を収めることができる。

アタランテも、最低限の食糧の確保が達成できたと判断したようで、撤退の合図を空砲で放つ。
オプリチニキが使った爆弾による火災の煙、市街地の外でサーヴァント戦が行われたことによる雪塵、通りに散る血と銃弾、ギリギリでジェノサイドに至らなかっただけで、ひどい有様だった。


「…回復術式を使いながら行く、警戒頼んだ」

「運ばなくて平気かい?」

「まだ移動に集中できる段階じゃない、相手はライフルも使うしな。迎撃メインだ」

「了解」


アーサーの護衛のもと、唯斗は右足を引きずりながら歩き、足に治癒術式を展開する。魔力が常に足りていないため、回復すら時間がかかる。
アーサーを現界させるだけで精一杯である状態は、正直じり貧だ。せめて、外部からのエネルギー供給ができるようになるか、あるいはマシュの盾があれば一時召喚で負担が減らせるのだが、今は生きて戦えているだけ僥倖と思うべきだろう。


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