永久凍土帝国アナスタシアII−2


3日後、立香たちが帰還した。
味方になってくれる村はなかったものの、一方で新しいサーヴァント、アントニオ・サリエリが加わった。クラスは逸話を考えれば納得のアヴェンジャー。
サリエリは、特に音楽史に残る名曲を生み出したわけでもない宮廷音楽家であり、モーツァルトの才能を前に仕事も名誉も奪われた。その後モーツァルトを殺したという噂がつきまとい、その一点だけが、彼の作品よりも遥かに歴史に名を刻んでしまった。
そのようにして、モーツァルトを殺した、という疑惑だけで英霊になったため、スペックも極めて低い人物だが、敵側に洗脳されていたそうだ。そして、トゥーラにてカドックたちに襲撃された際に用済みを告げられ、洗脳が解けてカルデア側についた。

また、敵に関する情報も更新された。まず、このロシアはやはりカドックとアナスタシアがクリプターとして担当しているらしく、また、この世界を異聞帯(ロストベルト)と呼ぶらしい。
コヤンスカヤも言っていた言葉だが、確かに、帯というのは納得だ。

特異点がそのまま継続した世界、剪定事象として淘汰されるはずだった分岐。7つの異聞史を、敵は侵略兵器として活用した。そのために使われるのが空想樹であるということだ。

一方のこちらは、新しい砦への移転準備ができているため、いったん立香たちも含めて新しい砦へと移動。
外観だけ完成している内側に資材を運び込みつつ、アヴィケブロンは洞窟で工房化とボーダー修復用の素材を確保した。

その後、数日かけて砦を完成させたところで、立香たちは再びアヴィケブロンを連れてボーダーに戻ることになった。
唯斗とアーサーは引き続き、元の砦に戻って最後の準備を行い、立香たちと合流してから新しい砦に移転してモスクワ攻撃を実行する手はずだ。

しかし、立香たちがボーダーに戻って1日が経過したときだった。

昼過ぎになって唯斗とアーサーはアタランテと砦移転の打ち合わせをしていた。
そこに突然、外から悲鳴と銃声、そして「敵襲!!」という声が聞こえてきたのである。


「なっ、こんな前触れもなく…!?」

「行こうマスター!」


言われずともアタランテはすでに外へ向かっており、唯斗とアーサーも後に続く。
会議室を出て通りに出ると、すでにそこはオプリチニキたちが闊歩していた。集落はあちこちから悲鳴が聞こえてきており、多くの人々が外に出て交戦している。
さらに、老人や子供、病人、怪我人も、オプリチニキに引っ立てられて殺されていた。


「ふむ、カルデアはもう一人のマスターだけしかいなかったか」

「な…ッ!!」


すると、忘れもしない低い声がかけられた。言峰神父だ。
アタランテはすぐに言峰に弓を引き、アーサーも剣を構えて交戦体勢に入る。だが、それよりも早く巨大な影が現れた。


「悪いが、叛逆軍にはここですべて絶えてもらう」

「あれは、アステリオス…!?」


現れた巨人は、アステリオスだった。しかし見た目は全体的に白く、何よりひどく狂化されていた。サリエリと同じ洗脳か、あるいはこの異聞帯のサーヴァントか。
アステリオスは一撃でアタランテを吹き飛ばすと、そのまま近くにいたヤガの戦闘員、そしてその子供をまとめて薙ぎ払った。

アタランテは会議室のある建物の壁面に叩き付けられ壁が崩れ落ち、ヤガたちは地面に倒れて動かなくなった。子供たちまで、雪に血を流して倒れている。あれはもう死んでいるだろう。
一気に殺気立つアーサーに、言峰は苦笑する。


「その出力で倒せるとでも?いくらアーサー王とはいえ、現界を維持しているだけではただの兵卒だろう。まぁ、アーサー王の現界を維持させているだけで偉業だがね。そうだろう、カドック君?」


言峰がそう言った途端、その後ろから、実に2年ぶりとなる姿が現れた。
カドック・ゼムルプス、唯一、カルデアで友人と呼べる人がいたとするならば、それに該当する人物だった。


「…久しぶりだな、唯斗」

「……、非戦闘員まで殺すことも、お前の指示なのか」

「いや?ツァーリの指示だ。皇帝の威光に逆らうなら、こうなってしまうというだけの話だよ。ただ、君のことはちょっと別だ」


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