永久凍土帝国アナスタシアII−6


21世紀まで継続したモスクワ・ツァーリ国、その首都ヤガ・モスクワの宮殿は、あまりにセンスのない粗野なものだった。
まるでファンタジーの魔王城か何かのようだ。


「…これがこの異聞帯のクレムリンか。嘆かわしいもんだな」

「汎人類史のクレムリンだって、外見の美しさで中身の醜悪さを隠していただけさ」


悪趣味な廊下を見渡して言った唯斗に、カドックはそう返した。正直それはそれで同意だ。

あれからずっと、唯斗は拘束されずにカドックと歩いている。カドックが直々に監視している体裁だろうが、カドックも唯斗が抵抗しないことを理解している。
アヴィケブロンは雷帝を倒すということだけは協力を約束しており、その準備の術式をモスクワで展開でき次第、立香たちに合流するということだ。カドックも、アヴィケブロンには雷帝撃破までの付き合いを求めているため、それを許している。

一方、サリエリは自称マカリーとどこかへ行ってしまい、アタランテは牢獄に繋がれている。ただ、その牢獄もあまり険しいものではないようだ。
こうして、カドックがいるとはいえ自由に城内を歩いているのは唯斗だけである。

そのままカドックの部屋に連れられた唯斗は、なぜかベッドに二人で並んで座る形になった。客用のシッティングスペースがない部屋であるため当然と言えば当然だが、本当にカルデアでのことを思い出してしまう。


「…カルデアで音楽聴かせてたときを思い出すな」

「……俺も同じこと思い出してた」


こうして右側にカドックが座り、イヤホンでカドックが好きだと言っていたロックバンドの音楽を聴いていた。ポーランドはヘビメタを中心にロック音楽が盛んな国だが、ポーランド語ではさすがに何を言っているかは分からなかった。

あのときに戻れるなら、と僅かに思わないと言ったら嘘になる。けれど、もう戻れないことは、お互いによく分かっていた。
片やカルデアと世界を滅ぼして、片やそれを糾弾しに来たのだから。


「…その指輪、あのアーサー王との擬似的なパスの役割を果たしてるんだろ。薬指ってことは…その、そういうことなのか」

「あぁ…」


カドックはずっと気になっていたのだろう、唯斗の左手の薬指に鎮座する指輪にいろいろと察したようにする。
ポーランドは同性愛嫌悪が激しい国の一つであり、LGBTに対する差別が欧州でも最も苛烈な場所だ。引いただろうか、と思って隣を見遣るが、特に嫌悪はなく、単純に興味があるだけのようだった。


「…そうだよ。マスターとサーヴァントであり、同時にプライベートな関係もある」

「驚いたな。あのアーサー王を落とすとは…まぁ、昔よりよっぽど良い表情するようになったもんな、お前。グランドオーダーの旅で騎士王の琴線に触れるものがあったんだろ」

「……本当はさ、父親が俺を使って死者蘇生を試みたとき、一瞬だけ召喚されたのはあのアーサー王だったんだ」

「な…っ、」


さすがにそれにはカドックも驚く。同時に納得していた。そこまでの縁があるなら、カルデアなしで常時召喚されていることも理解できるといったところだろう。


「アーサーだけじゃない、人理の守護者エミヤ、パリの処刑人サンソン、ケルトの槍兵ディルムッド、ウルク王ギルガメッシュ、ペルシアの弓兵アーラシュ、ファラオ・オジマンディアス、円卓の騎士ガウェイン、アーサー王の宮廷魔術師マーリン、日本の武将・森長可…契約したサーヴァントたちと一緒に過ごすうちに、やっと俺は人間らしくなれた」

「…、一周回って頭悪いメンバーだな」


カドックは呆然としたように唯斗のサーヴァントたちを知って呟く。そして、すぐに呆れたようにした。


「…ていうかそれ、僕に言って良かったのか」

「あ」


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