永久凍土帝国アナスタシアII−8
「正しいから続くんじゃない、間違ってるから滅びるんじゃない。結果に後から意味を見出すだけだ。俺が生まれて来たことが正しいか間違ってるかじゃなくて、俺はこの命を、この人生で出会った人たちを、全部大切だと思う」
「結果に、後から意味を…」
「そうだよ。俺たちのことを、命をなげうって守ってくれた人も言ってた。人生は後から意味がついてくるんだって。きっと世界も同じだ。俺たちは、このロシアを滅ぼす。でもそれは間違ってるからじゃない。俺たちの歴史が正しいからでもない。ただそこにはお互いの生存をかけた戦いがあるだけだ。それでも最後に、俺たちはロシアを打ち倒して、このロシアで生きたすべての人たちに、このロシアが歩んだ450年の歴史が確かに存在したことに、ちゃんと命と意味があったんだってことを知って生きていく」
唯斗の言葉を聞いて、カドックは目を見張る。そして、小さく笑った。
「…本当に、変わったな、唯斗は」
「嫌だった?」
「……ロシアじゃなくカルデアにつくなら、すっごく嫌だね」
「はは、そっか。ごめんな」
「謝るなよ、腹立つから」
唯斗も同じく笑うと、カドックの目元に手を伸ばした。ひどい隈は、この極限のロシアをこれまで生き抜いたカドックの苦闘そのものなのだろう。
「…なんだよ」
「や、眠れてねぇのかなって。ちょっと寝たら?」
「…僕は最終的に君のことも殺すかもしれないんだぞ。少なくとも、カルデアは皆殺しにする。それを忘れてるのか」
「忘れてないよ、お前たちがカルデアの人たちを殺したことも」
「ッ、」
息を飲んだカドックだが、唯斗は特に怒りは持っていない。ただ、どうにもならなかったという悲しみと、こんな事態を招いた黒幕への怒りだけは、心の奥底にいつまでも持っていようと思っている。
「…決して忘れない。でも、俺がカドックのことを今も大切な友人だと思ってる事実も、忘れたくないんだ」
「……そうかよ」
少しだけ憮然としながらも、カドックはおもむろに横になると、唯斗の膝の上に頭をのせた。さすがにこれはカルデアにいた頃もしなかった。いわゆる膝枕というやつだ。
今頃とてつもない形相でモスクワに向かっているであろうアーサーが見たら、問答無用でカドックが殺されかねない。
「…寝る。少ししたら起こせ」
「はいはい」
カドックはそのまま本当に寝息を立て始めた。ゆっくり眠ることなどできなかったのだろう。
やつれた表情が深いに眠りに落ちたのを確認してから、唯斗は扉に目を向けた。
「…さすがに寒いんだけど」
「あら、お邪魔をしてしまったかしら」
すると、扉を開いて美しい少女が入ってきた。アナスタシアだ。
ヴィイと呼んでいた人形を携えて、唯斗の膝に頭を乗せて熟睡するカドックを見下ろす。
「…妬けるわね。殺したくなるわ、二人まとめて」
「女子だって距離近いだろ」
「……、そういうところ、カドックとそっくり。呆れた」
アナスタシアは本気で呆れたようにしながらも、カドックを見つめる瞳は優しい。
「…俺は、これが不敬な感情だって分かってるけど、よりにもよってロマノフ最後の皇女であるあなたに、戦わせることがめちゃくちゃ嫌だ。でも、カルデアでの借りは返す。俺たちは、あなたを殺す。記憶が曖昧であろうと、異聞帯に染まっていようと、それでもロマノフ朝の皇女で在り続けるあなたへの敬意をもって」
「そうして頂戴。余計な感傷は不愉快です。私を舐めないで。私はアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴナ。300年の王朝を次代に託すこともできなかった無力な皇女。けれど、このロシアは私とカドックで可能性ある国に作り替える義務がある。それがロマノフの悲願。私も、今度こそあなたたちを殺すわ」
互いに宣戦布告を済ませ、それでも起きる気配のないカドックを揃って見下ろす。
アナスタシアは、じっとそれを見つめてから唯斗に視線を移した。
「…それはそれとして。カルデアでのカドックがどんなだったか、私に話して聞かせなさい。これは命令です」
「……はいはい」
「そういうところも腹が立つほどそっくりね」
ツンとしながら椅子に腰掛ける皇女に、唯斗は内心でため息をつく。
お似合いだが、イチャつくなら巻き込まないで欲しい。