無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−4


そんな話をしながら、美しい凍れる針葉樹林を抜けた先、見晴らしの良さそうな丘を登ると、今度はまた別の驚きをもった光景を目の当たりにする。


「山が…燃えてる……?」


呆然と立香が呟いた通り、丘から見える景色はとんでもないものだった。
まず手前が凍てついた針葉樹林。そしてその奥に雪原があって、さらにそこから始まる山嶺は氷に閉ざされているにも関わらず、青い炎が立ち上っていた。
地表から出ている炎ではないため、魔術的なものだろう。


「白い氷と青い炎が山嶺を覆う世界…これが、北欧の異聞帯の姿なんですね」

「実際の北欧との相違点もあるけどな」

「こんなに凍ってないの?」


見渡す光景にいくつか実際の世界との相違を発見していた唯斗だったが、頓珍漢な立香がいつも通りで、呆れながらも説明する。


「まずは地形。ロシアもそうだけど、かなり違ってるな。あんな険しい山岳は、もう少し北、エーレブルーよりも北側からだ。この辺りはより平坦な地形をしてる。何よりあの太陽だ」

「そうですね、あまりに大きすぎます。実際の太陽があの大きさに見えるほど膨張していたとすれば、地球は生命が暮らしていけない環境のはずです」

「実際の太陽じゃなく、それより手前…この世界に見えているものってことだな」


燃えていないのに燃えている青い炎、溶けない氷、巨大すぎる太陽、険しくなっている地形。それらは実際の北欧とはかけ離れた光景だ。


「氷と炎…まるで北欧神話の冒頭みたいだな」

「ムスペルヘイムとニヴルヘイムですね。世界は最初にその2つの世界があり、ムスペルヘイムの炎がニヴルヘイムの氷に触れたことで、巨人ユミルと雌牛アウズンブラが生まれたという」

「北欧神話ってあれだっけ、最後はラグナロクで終わるっていう」

「そうだな」


北欧神話に語られる創世記のような光景だが、異聞帯は歴史の分岐点から現代まで継続した世界であるため、一応は「現代」である。神話の世界に見えるだけだろう。

一度ボーダーに戻るようホームズに指示されたため、4人は丘を降りてボーダーへと向かう。銀世界は、ロシアほど寒くないため、この黒い極地礼装で十分体感は普通の状態を維持できている。

するとそこに、振動が響き始めた。地面が一定の間隔が揺れて、それに伴って雪の結晶が舞い、光を受けてダイヤモンドダストとなって輝く。


「…マスター、敵性体が接近している」

「…この足音の重さ、ちょっと想像したくねぇけど……」


どう考えてもこの重量は普通の魔獣のそれではなく、同時に、二足歩行に感じられる。
やがてその正体は、雪を振りまきながら針葉樹をかき分けて進んできた巨人として、4人の視界に入ってきた。

仮面をつけ、槍を携えた5メートルほどの巨人だ。


「……嘘だろ、神代の生き物じゃ…」

「巨人、明らかにこちらへの敵対的な意思を示しています…!」

「…、仕方ない、マシュ、唯斗、戦おう!」


どう見ても敵意剥き出しでこちらに迫る巨人。仕方なく、アーサーは剣を抜いて、マシュはオルテナウスを戦闘モードに移行する。

マシュはまず、雪野原を走って巨人に接近すると、その大ぶりな攻撃が当たる前に跳躍し、その腕に着地して走り出す。
巨人が腕を走るマシュに意識を向けている間に、背中に回り込んだアーサーが高く飛び上がって巨人の頭に迫った。

そして、アーサーの打撃が後頭部から巨人の頭を思い切りたたき割り、前につんのめったところをマシュの盾が顎にクリーンヒット。巨人は大きな音を立てて地面に倒れ、雪煙が舞った。


「対象、沈黙しました」

『北欧異聞帯に21世紀ではあり得ない巨人がいる、それはまずいな…』


ホームズはこれだけの情報ですでにいろいろと仮説を進めているようだ。唯斗としては、敵性体の接近に足音まで気づけなかったことの弁明が欲しいところである。


「ホームズ、あの巨人をそっちで補足できなかった理由は?」

『あれは神代の巨人種、当然ながら現代はおろか過去の特異点でも出現しうる場所は存在しなかった。メソポタミアはその手の存在がいなかったからね。データベースがない以上、識別できない。加えて一帯の氷雪に、相当の魔術師でなければ認識できないほど微力な魔力が含まれていたことも分かった』

「なるほどな、理解した。続きはいったん帰投してからだ」


異聞帯の様子が掴めれば、ここに必要なサーヴァントも分かる。そうすれば、立香が再契約するべき英霊も検討しやすくなるだろう。
いったん4人はボーダーに帰投する。そもそもこの異聞帯は、攻略せず通過することも視野に入れている。深追いは禁物だ。


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