無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−5


ボーダーに帰ってから、あの巨人はヨトゥンで間違いないだろうという結論に至った。
北欧神話においては9つの世界が世界樹ユグドラシルに内包されているとされるが、そのうちの2つであり最古のものが炎の領域ムスペルヘイムと氷の領域ニヴルヘイムだ。
ムスペルヘイムで国境を守るのはスルトという炎の巨人であるとされる。

ムスペルヘイムの炎とニヴルヘイムの氷が触れたことで巨人ユミルと雌牛アウズンブラが生まれ、ユミルから霜の巨人ヨトゥンが生まれる。アウズンブラが舐めた岩から最初の神ブーリが生まれ、ブーリとある巨人の子がオーディン、ヴィリ、ヴェーの3神である。そしてオーディンを最高神として、その氏族をアース神族といい、アース神族が住む世界をアースガルズという。

とりあえずヨトゥンのデータを更新して、今後は索敵できるようになったところで、突然、デッキにアラートが鳴り響く。


「まずい!突然サーヴァント反応が付近に出現、とんでもない魔力量だ!」

「ふむ、近くで霊体化を解いたのか。まだこちらの場所は分かっていないようだが…」


観測しているムニエルは、サーヴァントの接近を知らせる。慌ててダ・ヴィンチもモニターを覗き込んだ。


「異聞帯のサーヴァントか…!」

「こっちに向ける魔力に強い呪詛が籠められてやがる、こりゃ敵性体だ!」

「…さて、どうする?ミスター・藤丸、雨宮」


まだ立香のサーヴァントはロシアで再契約した8騎とマシュだけ、唯斗に至ってはアーサーだけだ。それでも、ここで息を潜めて待っていても事態は好転しない。


「…打って出よう」

「それしかないな」


立香、マシュは覚悟を決めており、唯斗とアーサーも当然そうだ。せめて、ボーダーが発進できるようにエンジンを暖めるくらいはする必要がある。その時間を稼がなければならない。
ホームズもさすがに今回ばかりは出撃しようとしていたが、そこに、休んでいたゴルドルフが飛び込んできた。


「急速潜航だ!!迎撃なんてなーに馬鹿なことを言っているのかね!!」


ゴルドルフは、緊急の虚数潜航を命じた。確かに、逃げるという点では最も確実だ。とはいえ、浮上だけでなく潜航そのものにもそれなりのリスクを伴う。
それでも、死者が出るよりは全員で虚数潜航に臨む方がマシだとゴルドルフは考えたようだ。


「…まあ、所長の言うことももっともだ。すまないね、当艦はこれより潜航する」

「総員着席!」


ゴルドルフの号令によって、ボーダーは急遽、虚数潜航に方針を切り替えた。ダ・ヴィンチは電算室に生体接続して論理術式を組み替え、スタッフたちは一斉に席に着く。
唯斗とアーサーも並んで格納椅子に座ってシートベルトを締めた。


『準備はいいね?潜航開始!』


ダ・ヴィンチは超特急で準備を終えて、成功率98%での虚数潜航を開始した。急速にシステムが起動する音が艦内に満ちていく。
そしてゼロセイルを開始しようとした、そのとき。

潜航とはまったく違うガクン、という衝撃が走り、虚数潜航は強制的に停止した。窓からは依然として明るすぎる太陽の光が入ってきていた。


『…やられた。こちらの術式発動を感知されて、コンマの差で捕まった』

「嘘だろ!?このサーヴァント、直接ボーダーを掴んでやがる!!」


なんと敵性サーヴァントは、ボーダーを鷲づかみにして虚数潜航を停止させたらしい。
それだけに飽き足らず、ボーダーはふわりと浮き上がる。持ち上げられているのだ。


「マジかよ…!?」

「マスター、しっかり掴まって歯を食いしばって!!」


アーサーは焦ってそう声をかけてきた。唯斗は黙って奥歯を噛みしめて、舌を噛まないようにする。
直後、重力を感じられなくなり、ふわりと浮いたまま、目の前の景色が逆さまになった。

そのまま、ボーダーは投げ飛ばされて猛スピードで空中を滑空し、そのまま地面に激突、ものすごい衝撃とともに地面を滑って停止した。
頭が何度も背もたれにぶつかって痛みが走るが、なんとか車体は持ちこたえている。普通の車であれば衝撃で押しつぶされていた。


「っ…!」

「怪我はないかい、マスター」

「…大丈夫だ。くそ、これはさすがに、出迎えが必要だな」

「あぁ」


分かっているようにアーサーは立ち上がり、聖剣を携える。ムニエルは悲鳴のように報告した。


「サーヴァント反応接近!ボーダー外壁部に接触、装甲融解開始…!」

「切り裂くつもりだ、行くぞアーサー!」

「マシュ、俺たちも!」

「はい!」


このままでは外装が突破される。唯斗はアーサーとともに上部ハッチに向かうと、甲板に出る。後から立香とマシュ、ホームズも続く。
そして、敵性サーヴァントが左後方にいるのを発見した。


「マシュ!」

「行きます!」


マシュは甲板を走り出すと、サーヴァントに向かって突っ込んだ。装甲に剣を突き立てていたサーヴァントは盾に叩き飛ばされるが、華麗に離れた雪原へと着地した。


「ほう、英霊3人と人間2匹か。英霊2人は余計なモノが混ざり、1人は異世界の存在のようだが…」


唯斗たちも甲板から雪原に着地して、すかさずアーサーとホームズも前に出る。
サーヴァントは背の高い男性で、剣を持っている。セイバー、もしくはバーサーカーか。


「アーサー、頼む」


唯斗はアーサーの背中に手を押し当てて、令呪1画分を消費して魔力を送った。保って5分、これで少しは追い詰められるかどうか。
サーヴァントは短剣でマシュの盾を弾いて吹き飛ばす。一方、入れ替わりにアーサーも聖剣でサーヴァントの剣に応じた。


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