無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−6


瞬時にサーヴァントは短剣2本に持ち替えて応戦し、激しい剣戟が始まった。先ほどのマシュへの攻撃もまったく剣の軌道が見えなかったが、今回はアーサーと合わせ、どちらもまったく目で追えない。
あまりの剣捌きの速さに、雪が舞って煙のように包まれていくほどだ。


「アーサーと互角の剣戟…それにあの魔剣、バルムンクにも似た感じがする」

「私も同意見だよミスター」


ホームズが唯斗に同意したところで、アーサーとサーヴァントはいったん距離を取った。
アーサーは息を切らして肩で呼吸しているが、向こうは余裕綽々だ。


「クク、面白い。異世界のアーサー王、ということだな」


そろそろ令呪が切れる、追加で送ってもこれではただ消耗するだけだ。
こんな早々に完全な詰みを迎えるとは思っていなかった。クリプターの姿はないため、単騎かもしれない。
一方、ホームズはこんなときでも余裕を崩さずに問いかける。


「そういうあなたは、竜の心臓を喰らい、その知恵を得た者。そうだろう?北欧の大英雄、シグルド!!」

「シグルド…そうか、ジークフリートとは別の英霊になるのか…!」


てっきりジークフリートの別側面かとも思ったが、確かにその方が納得だ。
同じ伝説ながら、大陸ゲルマンと北方ゲルマンとで異なる描かれ方をする存在。ジークフリートはオランダ国境近くの北西ドイツが出身だが、シグルドはスカンジナビアの伝承だ。


「やかましい。人間との問答は好かん」


そう言うと、シグルドは突然、魔剣を輝かせた。刹那、マシュを庇ったホームズを切り裂いた。右腕が吹き飛ばされ、鮮血が雪を赤く染める。
さらに、シグルドに速攻で仕掛けたアーサーにも同様に魔剣を振るい、アーサーの胴体を切りつけた。すんでで避けたために体が真っ二つになることこそなかったが、霊核ギリギリだ。


「アーサー!!」


唯斗は駆け寄ろうとして、ギリギリで踏みとどまる。それ以上はシグルドの攻撃範囲に入る。マシュと立香はまだ少し離れた位置にいた。


「賢しいな小僧。騎士王をその身一つで現界させるとは大したものだが…現界させることを優先した結果、アーサー王崩れの半端な霊基とは」


シグルドはすでにホームズにもアーサーにも興味なさそうにする。

おかしい。英霊シグルドが、ここまでの悪性を持つものだろうか。いや、シグルドは一貫して、北欧の男性像らしい愚直で融通の利かさない真面目さを前面に押し出して描かれてきた。ブリュンヒルデを巡る話が特にそうだ。
それを考えれば、このシグルドはそうした側面が見られないどころか、あそびすら見られる。シグルドを形作った13世紀のエッダやサガでは、滅びる定めにある神話の神々と、人間の英雄とはまったく別の描かれ方をされてきた。それは、先に神話があり、次に神話をベースにして民間の伝承が形成されたからだ。神話と英雄譚は、同じ設定の物語であるものの、語られる文脈も意図も違っていた。


「…あんたは、本当に、シグルドか…?」

「ほう、なぜそう思う」

「……シグルドに託された北欧男性の人間味が一切感じられない。そもそも、人間を人間として捉えて別の生き物のように見てる。神代の英雄だからこそ、神ではない存在として人間は自らを人間とする思考が強かったはずなのに。まるで、神に近い存在かのような…」


そう言った瞬間、シグルドは瞬く間に唯斗の目の前に迫っていた。その魔剣グラムが振り上げられている。
体の内側が冷えるような感覚が遅れてやってくる。

殺される。そう思ったが、魔剣が唯斗に当たる前に、胸元のネックレスが輝いてシグルドを撥ね除けた。
よろめいたシグルドは驚愕ののちに、唯斗へと極めて強い殺気を向ける。


「貴様なぜ…!!」

「…、」


呆然とする唯斗を見て、シグルドは冷静になったようで、あふれ出ていた殺気をしまう。すでに唯斗への興味は失せていた。


「忌々しい。が、そろそろ務めは果たさねば。脆弱な騎士王を従えるだけの人間ごとき、いつでも殺せるからな。慈悲に感謝することだ」


そう言って、シグルドは泰然とした様子でボーダーへと向かっていった。車内に入るつもりだ。
追いかけようかと思ったが、一方でホームズとアーサーは危険な状態だ。立香もそちらを気にしてしまっている。


「立香!マシュ!シグルドを追いかけてくれ!一時召喚ができるのは立香だけだ!二人は俺が回復させておくから!」

「っ、分かった!」


立香は頷いて、マシュとともに船内に戻っていった。
唯斗はすぐにホームズとアーサーのところへ駆け寄る。二人とも意識がもうろうとしていたが、アーサーはすでにエクスカリバーによる回復が始まっている。

一方、ホームズにはルーン魔術が刻まれているのが見えた。


「これは…原初のルーンか。じゃあやっぱりあいつはシグルドなのか…?」


主神オーディンからブリュンヒルデが賜ったとされる原初のルーンは、シグルドにも与えられた。それを考えればやはりあれはシグルドなのだろうか。
謎はさらに深まったが、とりあえず唯斗は、アーサーとホームズの回復を開始する。

胸元の、アーラシュがくれたターコイズにカルナの甲冑がチェーンとしてつけられ、キャスターのルーンが刻まれたネックレスは、まだ少し熱を持っていた。


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