無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−8
スキーで進むこと数十分、そろそろ地図の照合を行おうということでいったん立ち止まり、マシュが座標を確認する。
「大雑把な照合になりますが…ここは旧ヴェッテルン湖直上のようです」
「え、どう見ても森に山に…湖なんてありそうにないけど」
「…、ヴェッテルン湖はスウェーデンでも2番目にでかい湖だ。横幅は概ね20キロ、縦幅は100キロ以上ある。さすがに誤差じゃなく、地形が著しく変わってるとみた方が……」
「…?」
「……琵琶湖の3倍」
「でっか!!」
よく分からなさそうにしていた立香に、より分かりやすい喩えをすれば立香はようやく驚いた。これほどの巨大な湖だ、座標のずれを考慮しても地形が違いすぎる。
しかも、周囲の木々をよく見てみると、凍った樹木ではなく、樹木の形をした氷であることが分かった。目に見えるものすべて、雪と氷なのだ。
「目標地点はまだもう少し北西ですが、ここからは森に入っていくので徒歩に切り替えましょう」
「マスターは僕が抱えていようか?」
「はっ倒すぞ」
アーサーはそんなことを言ってきたため、唯斗は軽くどつく。それを微笑ましそうに見てから、マシュは地図をしまってスキー板をオルテナウスから外した。
すると、立香がおもむろに上空を指さした。
「あれ、鳥がいる!」
「っ、本当です!あまり生物が生きていけそうな環境には見えませんが、鳥は生息できるのですね…」
「…、あの鳥は……」
見上げたアーサーは鳥の姿を見て少し驚いたようにしている。確かに、この環境で2羽の鳥が飛んでいるのは不思議な気もするが、アーサーのそれはそういうことではないだろう。
「…アーサー?」
「あぁいや…それより、そろそろ移動しよう。野営の用意はあるとはいえ、早く目的地に着くに越したことはない」
「そうですね、行きましょう」
アーサーはなんでもないと首を振るため、唯斗は追求しないことにした。ホームズほどではないが、アーサーも「言うべきとき」を図るタイプだ。唯斗はそれでも、アーサーが必要だと考えたことを尊重し信じようと思っているため、深く尋ねることはしなかった。
そうして徒歩で森林を移動すること数時間、やたらフォウが元気そうに氷の樹木の合間を跳ねているのを見ながら歩いているときだった。
「きゃあああああ!!!」
「っ、今の…!」
森の奥から突然、少女のものらしき悲鳴が聞こえてきたのだ。人間はおろか動物の影さえない氷の森の中、少女がいるなど思いもしなかったが、聞こえたからには行動は一つ。
「アーサーは先行してくれ!」
「了解!」
唯斗はまずアーサーを先に行かせ、立香、マシュとともに走り出す。
森の中を抜けて開けた雪原に出ると、巨人と戦うアーサーの姿が見えた。
アーサーは倒すことよりも巨人を遠ざけることを目的に剣を振るっており、少し離れた位置に少女が見えた。
マシュはアーサーに加勢しに走り、唯斗は少女のところに駆け寄る。立香はさらに援護のため、出発前に新たに再契約したサーヴァントの一部を召喚した。
現れたのはアンデルセンとベオウルフ。ベオウルフはもともとカルデアにいた方だ。
「ええい!なんだこのクソファンタジーなスウェーデンは!というか俺はデンマークの出身だと何度言ったら分かるんだこのスットコマスター!」
「召喚してすぐの挨拶ありがとう!ベオウルフたちの援護よろしく!」
「まったく!」
アンデルセンは現れるなり流暢な悪口を述べたあと、本を片手に援護を始める。ベオウルフ、マシュ、アーサーに強化や回復をかけて支援しながら、いつでも立香を守れるよう近くに控えている。
「ハッ、ちげぇねぇや作家の先生よォ!こんな光景見たことねぇな!」
ベオウルフの故郷たるイェータランド中央部にあたる場所だが、やはり彼にとってもこの光景は尋常ではないようだ。そもそもアンデルセンは北欧だがデンマークの人物である。