無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−9
さすがに3騎の攻撃を受ければ巨人も耐えられず、あっという間に何体か倒れた。
一方、少女を庇っていた唯斗は、神への祈りを捧げる少女に話しかける。
「君、大丈夫?怪我は?」
「神様お願いしま……え、あれ?」
目を開けた少女は、巨人がいなくなっていることに驚愕する。すでにベオウルフとアンデルセンは退去しているが、消えるところを見ていたらもっと驚いていただろう。
「…すごいわ!!どうやったの!?巨人に襲われたらみんなぺしゃんこにされちゃうのよ!」
緑の瞳に柔らかな金髪、典型的な北方ゲルマンの顔立ちだ。勢いよく喋る少女に呆気にとられる唯斗たちに気づいたのか、少女は顔を赤らめて落ち着く。
「ごめんなさい、初対面の人には自己紹介するのよね。あたし知ってるわ。えっと、あたしゲルダっていうの!お兄さんたちのお名前は?」
少女はゲルダというらしい。その名前や、翻訳呪符でも少し聞き取りづらいところがあることも含め、恐らく古ノルド語系統だろう。
「俺は唯斗、こっちはアーサー。で、マシュと立香」
古ゲルマンは名字を持たないため、名前だけ名乗る。
「唯斗さん、アーサーさん、マシュさんに立香さん。ありがとう!そういえば、そんな薄着で寒くない?どこの集落から来たの?あっ、お世話になった人にはお礼をしなければならないんだったわ。でも薬草も摘まないと…」
わたわたとするゲルダに、立香もマシュも表情を緩める。アーサーも微笑ましそうにしていた。
唯斗にはあまり、子供の年齢ごとの機微というのは分からないが、恐らく年相応の様子なのではないだろうか。
「あー…ゲルダ、質問してもいいか?」
「ええ、もちろん!」
「一人で来たのか?薬草、って言ってたけど」
「そうよ、大人はみんな明日の準備で大忙しだから、子供のことは子供でやるの!御使いがきてくださったら、ルーンで病気なんてすぐ治せるのだけど、明日になったらラウラは死んでしまうわ」
巨人への恐怖はあっても、巨人がいることへの驚きは見られなかった。それならば、ゲルダは危険を理解して集落から出てきている。なのに、大人の姿がない。
子供がリスクを顧みずに無茶をするのも、言いつけを守らずに行動するのも不自然ではないが、命に関わる状況の子供がいるのに大人が出てこないのは不自然だった。
「でも、この先の山の中にはどんな病気でも治せるすごい薬草があるって聞いたの!だから……ええ、うん、分かってるわ、無茶なのも、本当は集落を出てはいけないのも」
「集落から出てはいけないのですか?」
「ふふ、試そうとしてるのね?でも分かってるわ。剣や槍を持った人は御使いだって聞いていたけれど…盾を持った人もそうなのね!マシュ様!きっと、武器はないけど、立香様も唯斗様も!」
「えっと……」
ゲルダはこちらを御使いとやらだと思っているようだ。それが示す言葉の意味は分からないが、神代が終わっていないことを考えると、これは「神」が生き残っている可能性が高い。
いたずらに警戒されてしまうよりは、申し訳ないが少し騙してしまっている方がいいかもしれない。唯斗は立香を見上げ、立香も頷いた。
「ゲルダちゃん、とりあえず薬草を摘んでから集落まで行こう。送るからさ」
「ほんと!?ありがとう!!」
まずは人類がいること、外見上は変化がないこと、集落という社会が構成されていることなどは発見できた。良好なコンタクトが取れたのは僥倖だ。
いや、そんな打算はなしに助けに入ったことが、そういう結果をもたらしたのである。