無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−11


翌日、爽やかな朝の光のもとに起き上がった4人だったが、ゲルダの姿がないことに気づき集落を歩いたところ、大扉の前に村人が集まっているのが見えた。
当然、ほとんどは子供だ。だが、20代の大人が花束を受け取っているのも見える。

唯斗たちの姿を見つけて駆け寄ってきたゲルダが説明してくれたところによると、あれは「愛された証」であるという。その証である花がないとヴァルハラに行けないのだそうだ。

本来、勇士の魂だけがヴァルハラに連れて行かれるはずだ。それが、間引きされた人類すべての行き先になっているというのは、神話の変質に他ならない。

そして、大人たちが地面に両膝を突いて深々と頭を垂れたときだった。


「人よ、人よ。定めの日である。人よ、お前たちの命は今日という日に刈り取られる」


突然、空から声が落ちてきた。女性の声だ。
温度のない、機械音声のようなものである。


「これは神の愛である。地上に唯一残られた神の愛である」

「ワルキューレ様!」


子供たちは歓声を上げて迎え入れた。そこに、空から急転直下、降りてきた輝き。
白を基調とした服に白いフードつきのマント、右手には盾、左手には光の槍、そして背中には光の羽のようなものが輝いている。
オーディンが生産したという戦乙女、ワルキューレだ。


「人よ、今は喜びを許す。定めに従い、これよりは大扉をお前たちのために開く。勇んで進み、巨人たちの贄となれ。さすれば勇士の魂ではないお前たちの魂も、戦士の館へと招かれる。これは唯一の神の愛である」


ワルキューレは、唯一の神と言った。北欧は多神神話だ、唯一神ではない。それにも関わらず唯一の神、しかも勇士の魂ではないにも関わらずヴァルハラへと招こうとしている。あまりに神話とかけ離れていた。

そこへ、立香が堂々と声を張る。


「待て!!」

「……?」


唯斗は正直見守ろうと思っていたが、それより先に立香が止めてしまった。
本来ならば、彼らが本気で救いとしてこれを信じているのならば、止めることはこちらのエゴどころか、今から旅立とうとしている人々にとって恐怖そのものとなってしまう。

しかし、止めたいという立香の意思を妨げるつもりもなかった。唯斗とアーサーも臨戦態勢となって、立香とマシュに続く。


「人よ、奇妙なる響きを得た。これは驚愕すべき事態であり、唾棄すべき罪である」

「待ってください、ワルキューレ!あなたたちは勇士英傑の魂をヴァルハラに導く者のはず!彼らは武器はおろか鎧すら身につけていない!なのに、巨人に殺されるのをみすみす見逃すというのですか!?」

「だ、だめよマシュ様!」


慌ててゲルダは止めるが、マシュは毅然とワルキューレに問いかける。しかし、ワルキューレは返答しない。


「神なき者か。神なき者が神域に侵入したと連結記録にあったが、お前たちがそうか。ならば誅殺を下さねばなるまいな」


言うなりワルキューレはマシュに斬り掛かった。その光の槍を突き立てるが、マシュは盾で弾く。
アーサーも剣を出現させた。


「あなたたちの価値観は知りません!でも、子供を子供のまま終わらせるなんて、残酷なこと、見過ごせません!」


マシュは立て続けにワルキューレに盾で打撃を入れる。入れ替わりに、アーサーも聖剣でワルキューレの体を地面に叩き付ける。
ワルキューレはアーサーを見て目を見開きながら、消失し始めた。


「勇士の、魂……量産されてより、2000年と、数百年、ついぞ、まみえること、あたわず……」

「…量産、か」


ワルキューレは消失し、住民たちはざわめく。動揺した人々には申し訳ないが、一方で、マシュだからこそ、この怒りは正当なものだと思った。きっと立香も、自分のためというよりマシュのことを思って行動したのだろう。

それよりも、今のワルキューレは不穏なことを言った。


「…立香、マシュ。どうする?このまま、この集落でワルキューレの軍勢を相手にするか?」

「……撤退すれば、あの人たちは別のワルキューレが扉の外に連れて行っちゃうよね」

「しかし、ワルキューレを北欧から放逐するまでここで戦うのはさすがに現実的ではないだろう」


アーサーも唯斗と同じ事を危惧しているようだ。
事実、上空にはすでに光の輪ができている。ワルキューレたちが集合しつつあるようだ。

マシュのオルテナウスは自動調整が働いているが、出力は落ちてきている。さすがにあの数を相手にすることは難しい。
さらに、上空のワルキューレたちから、一斉に光の槍が放たれた。一糸乱れぬ槍の雨だ。正確にこちらを狙うだろうし、恐らく、逃げてもあの槍は追跡して追いかけてくるはずだ。


「まずい、あの数は防ぎきれないぞ…!」

「っ、マスター、いったん集落を出て遮蔽物にあれをぶつけていくしか…!」


アーサーも防ぎきれない数の攻撃に焦ったようにする。

しかしそこに、轟くような砲声が響いた。原始的な神代の光景には似合わない、合理的な近代のものだ。
その虹色の光線が、槍の雨をかき消していく。


「な…っ、」

「呼んだかい?あぁ、呼んだよな。言わんでもいい」


ドン、と巨大な砲塔を地面に置いて、背の高い屈強な男が振り返る。ニヤリと不敵に笑った男は、まさに「英雄」の言葉が服を着て歩いているかのようだ。


「俺が!ここに!!いるぜ!!!」


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