無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−12


突然現れた英霊は、なんとナポレオン。あのナポレオンである。
恐らく「英雄」を思い浮かべろと言われて誰もが思い浮かべるであろう人物だ。

ただ、史実とはかなり異なる姿なのが気になったが、まずは大量に押し寄せるワルキューレを掃討する必要があったため、質問などはすべて後回しだった。

やがてワルキューレたちがちりぢりに撤退したのを確認すると、ナポレオンは「ついてこい」とだけ言って一同を集落の外へと連れ出した。

集落が見えなくなってから、ようやく自己紹介ができるようになった。


「さぁて、俺は汎人類史のサーヴァント、ナポレオン・ボナパルト。お前さんたちよりちょっと前に北欧に召喚された。まずは名前を聞かせてくれるかい、カルデアのメートル」


フランス語でマスターを意味する言葉だ。英霊にはフラットな立香ですら、あのナポレオンということで少し緊張した面持ちだ。


「俺は藤丸立香、カルデアのマスター。こっちはデミ・サーヴァントのマシュ」

「マシュ・キリエライトです」

「そんでこっちはもう一人のマスターで、フランスに暮らしてたこともある唯斗」

「雨宮…グロスヴァレ・唯斗だ」


ナポレオンは180以上あるようで、見上げた精悍な顔は唯斗がフランスにいたと聞いて眉を上げる。


「なるほど、確かにアジア系と混ざった顔立ちしてるな。さぞモテるだろう!」

「あー…あんまそういうの分からないけど、思い当たる節はゼロじゃないな。そんで、こっちは俺のサーヴァント、アーサーだ。アーサー王伝説の」

「……なに?」


ナポレオンはきょとんとしてから、アーサーを見て、そしてカッと目を見開いた。


「あの!アーサー・ペンドラゴンか!?本物の!?」

「あぁ、といってもこの世界ではなく別の世界線から来たのだけれどね。会えて光栄だ、フランス皇帝」

「ま、ま、マジか。こんなことがあるとは…!いや、現界した甲斐あったってモンだよなァ!」


対比列伝など英雄譚を読みふけった(陰気な)幼少期で知られるナポレオンだ。コルシカ島出身ということでフランス本国では差別されることも多かったナポレオンだが、心に秘めたその英雄への憧れが、彼を近代最高の英雄に仕立て上げた。
これで唯斗のサーヴァントには他にもアキレウスやオジマンディアスがいると知れば、ナポレオンは卒倒してしまうのではないだろうか。何度か卒倒しかけた唯斗がそう思うのだから間違いない。


その後、とりあえず興奮するナポレオンを宥めてから、北欧のことを新たに教えてもらった。

唯斗が先ほど気づいた通り、この北欧には神が1柱だけ残っている。それがスカサハ=スカディ、巨人の血を引く神であり、神々の花嫁と呼ばれた女神だ。スカディはラグナロクを唯一生き残り、似たような格を持っていたスカイ島の女王スカサハの霊基を使って神として君臨し続けているのだという。
やはり、北欧異聞帯はラグナロク後の神代が延々と続いている場所であるそうだ。

ワルキューレたちも、ラグナロクを生き残ったのはオリジナルの3姉妹だけであり、それをもとに100体以上が量産されたという。
そのワルキューレたちを従えるスカディは、「北欧の母」を自称するだけあってとてつもない慈愛に溢れており、すべての生命を愛するのだそうだ。

とりあえずは、そのスカディに謁見して、可能ならばペーパームーンを取り返し、空想樹の情報を得ることが当座の目標となる。

唯斗たちは、旧ヴェーネル湖に立地していた第23集落の北方、旧ヴェルムランド県スンネあたりにあたる山岳地帯の洞窟で一夜を明かしてから、旧オスロに座するスカディの城に乗り込むことになった。

ナポレオン曰く、「新生大陸軍(グランダルメ)」の始まりである。


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