無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−13
丸一日ほどかけて移動して、旧スウェーデン・ノルウェー国境を越え、一行は旧オスロにあたる地域にやってきた。
本来ならフィヨルドの奥に港町が広がるはずだが、フィヨルドはおろか海自体が存在せず、谷間の奥に氷の城が建っていた。
それは近代風の城であり、外敵を想定していない構造をしているように見えた。この地域特有の、屋根が多く大きな三角形を描くようなシルエットをしている。
谷間を縫うように王宮へと氷の橋が続くようだったが、そこを通ると戦闘を避けられないため、ナポレオンの案内で地下通路を通って向かった。なんとこの男、過去に単身で突撃していたらしい。英雄らしい破天荒さと言えばいいのか。
そうして地下通路を抜けると、ようやく広いホールに出ることができた。
壮麗な氷の大広間は、隅々まで装飾が施された極めて美しいものであり、敵の本拠地であることすら忘れて見入ってしまいそうだった。
しかし、その氷すべてに強い魔力を感じる。当然、北欧全体を覆う氷雪のものと同じだ。
「気をつけろ、この城そのものが神の魔力でできてる、北欧全体を覆うものと同じ…神による世界の統率そのものだ」
「当然であるな」
その凜とした声は、声だけで他者を圧倒できる、正真正銘の神のもの。
「頭を垂れて跪くことを許すぞ、ヒトの子ら。スカサハ=スカディが、おまえたちを愛してやろう」
玉座に現れた女性は、優雅な所作で小さな杖を構えながらこちらを見下ろした。悠然と立つその姿はまさにスカサハと同じだが、魔力量はかつてないほどの規模だった。まさに神だ。
「私がお前たちにくれてやるものはただ二つ。すなわち、愛そうか、殺そうか。お前たちには愛をくれてやると決めている。だが…空想樹の場所などは決して教えぬので、そのつもりでな。ペーパームーンなる羅針盤については好きにせよ、もっとも、現在の持ち主がどう言うか次第ではあるがな」
確かに話は通じる、慈愛も与えると言っている。だがやはり、決定的に敵対する立場にならざるを得ない様子だ。今はそうではないというだけである。
さらに、スカディは造作もなく名前を呼ぶ。
「スルーズよ」
「は、私たちの神よ」
即座に呼応して現れたのは、長い金髪を美しくなびかせるワルキューレ。魔力量がこれまでのワルキューレと桁違いであることから、ナポレオンの言っていたオリジナルの3姉妹ということで間違いないだろう。
「捕らえよ」
「…へぇ」
ナポレオンは不敵に笑うが、スカディはもはや、殺しはしないが自由にさせるつもりもないらしい。
「命令の入力を確認しました。殺害せずに無力化を試みます。成功率上昇のため、ムスペル種の解放許可を」
「許す」
「了解。神の僕の力を知るがいい、汎人類史」
スルーズは優雅に唯斗たちの前に降り立つ。同時に、床が開いて中から赤い巨人が姿を現した。
「っ、ムスペルヘイムの巨人か…ワルキューレの統率個体と同時にとなると、結構きついな」
戦力差は大きい、ここは各個撃破で行く必要がある。スルーズはランサーであるため、立香はランスロットを召喚する。さらに、巨人には鈴鹿御前を宛がった。
マシュ、ナポレオンは主に巨人担当、アーサーはスルーズに向かう。
ランスロットはアロンダイトを構えてスルーズへと走り出す。スルーズは光の槍で受け止めようとしたが、それよりも俊敏にスルーズの横へと踊り出たランスロットは、アロンダイトに魔力を集積した。
「美しき戦乙女よ、我が剣受けていただく!」
「何を言っているんですか!!」
「とぅわっ」
「円卓のランスロか!ぜひともサインをもらいたいものだ!」
「や、やりづらい…!」
マシュには非難を、ナポレオンからは羨望を向けられつつ、ランスロットはその剣をスルーズにたたき込む。しかし、黄金の盾がそれを弾き、さらにアーサーの追撃も盾で防いで躱していく。
「いったん全員下がるし!」
そこに、空中に飛び出た鈴鹿御前の周囲に大量の日本刀が浮かび上がり、アーサーとランスロット、マシュもそれぞれの敵から離れる。直後、大量の刀が弾丸のように巨人とスルーズに降り注いだ。
巨人の方はそれによって沈黙したが、スルーズはあまり効いていない。
「あの盾、まさか大神オーディンの制作物か…!?」
「ヒトでありながら観察眼を持つ者がいたか。その通り、これはオーディンより賜りし盾。汎人類史の英霊ごときの攻撃など通らない」
神性を持つ鈴鹿御前の攻撃すら通らないとなると、あれは神が造ったものだと考える方が適切だ。それは正解だったようで、スルーズはオーディンから直接与えられたものだと肯定した。
これは、あの盾を上回る出力の攻撃を当てるしかないが、それをこの場で用意するのは難しい。
さらに悪いことに、突然、広場に別のサーヴァントが現れた。魔力の満ちる空間であるにも関わらず、圧倒的に感じる魔力量。
シグルドまでもが現れたのだ。
「何かと思えばカルデアの人間どもか。どうする、殺すか?オフェリア」
「…黙っていなさい、セイバー」
そしていよいよ姿を現したのが、オフェリアだった。クリプターであり元Aチームだった少女。結局、唯斗はカドックとしか個人的な縁を結んでいなかったため、どんな人物かは正直よく知らない。
オフェリアは降霊科の名門であり、召喚科の家柄だった唯斗に対して、父の禁忌のこともあって、少し気まずそうにしていたのだ。
ただ、そういう気を遣ってしまうあたりに、今にして思えば善良な心を持った人物なのだろうと分かる。
だからこそ、あまり戦いたくない相手だった。