無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−14


戦いたくない、と言っても、それを向こうが許すことはなく、結局シグルドとの戦闘になった。
オフェリアが霊基を再臨させたことでさらに強化されてしまったシグルドだったが、途中、スカディの命令や、さらにはギリシア神話に登場する僭主カイニスがキリシュタリアのメッセンジャーとして乱入したこともあり、場は混迷を極めた。

結果、一同は事前の想定通り捕らえられることになった。

しかし想定外だったのは、そこで新たなサーヴァントと出会えたことだった。そのサーヴァントは、アルターエゴ・シトナイ。なんと、3柱の女神が混ざった複合神性だという。
そのシトナイからの助言によって、ペーパームーンを持っているのがシグルドであること、空想樹の場所を知っているオフェリアの傍に常にシグルドがいることなどから、シグルドとはどうあっても決着をつける必要があると分かった。

さらに、シグルドの霊基は汎人類史のものだという衝撃の事実も明らかになった。それであの悪性を考えると、やはり洗脳か、それとも霊基に別の存在が混ざっているのか、といったことがあり得る。
圧倒的強さを誇るシグルドへの対抗手段として、シトナイはもう一人の女神がガルフピッゲン山にいると教えてくれた。

そして現在、シトナイの助けで王宮を脱出し、なぜかここにもいたコヤンスカヤからもギリギリで逃げおおせた一行は、オスロの北西、旧オップラン県にあたるヨトゥンヘイム山地に位置する北欧最高峰、標高2469メートルのガルフピッゲン山に向かっている。

山道を歩き、時にマシュのスキーによる爆速移動も挟みつつ数時間、ようやく頂上に到達した。
そこには、当然のように燃えさかる城が建っている。炎の館だ。


「…ま、想定通りだな」

「やっぱりブリュンヒルデかな」


唯斗の言葉に、立香もさすがに有名所であるため理解したように見渡す。
ヒンダルフィヨル山の頂上にあったという炎の館、そこにいたブリュンヒルデは、この炎を超えられたら結婚するとグンナルに告げる。シグルドはグンナルに姿を変える魔術を使ってこの炎を超えてブリュンヒルデと会い、結婚するも初夜は共にせず、無事にグンナルとブリュンヒルデは結婚する。
しかしのちにそれが露呈したことでブリュンヒルデは復讐に駆られ、自分の手ではないものも含め、シグルド本人やその家族までも殺してしまう。その後ブリュンヒルデ自身も自殺する。

バリエーションは数多くあるが、基本的な筋書きはこの流れで一致している。

マシュは圧倒的な炎の壁に竦んでいた。


「ではこれは、神代の結界そのもの、でしょうか」

「いや、出力が足りてないし、何より俺が解読できるから神代の結界じゃない。それに匹敵するものではあるけど…にしても、この炎は山嶺の火炎と同じもの、なのに中にはムスペル種の巨人が闊歩してる…やっぱりこの炎はムスペルヘイムのもの…?スカディしか神はいないのに、いったいどうやって操るんだ……」


シトナイの話では、3柱目の女神はクリプターたちによって封印されてしまったという。つまり、北欧がこうして炎と氷の領域に分かれた後からこの結界が張られたということだ。
ムスペルヘイムの炎がラグナロク後も残っていること自体はおかしくないが、もはや神はスカディだけだというのに、どうやって「このムスペルヘイムの炎」を館に出現させたのか。


「スルトしか操れないはずの炎が、最近できたこの結界に使われてるんだとすれば、まるでスルトが生きてるってことになる。でもこの異聞帯に神はスカディだけ、それはワルキューレ統率個体も認めてた…なら、スカディも複合神性か…?」

「マスター、考えるのは後だ。何やら異質な敵が来た」


アーサーが剣を抜いてそう言った直後、巨人たちの他に突如として目の前に何かが落下してきた。
弾丸のように落ちてきたそれは、逆さになった円錐に球体が乗ったような不思議な造形のもの。生命のように見えるが、生命らしい機関は一切存在しない。

早速アーサーが斬り掛かるが、一発目は弾かれてしまった。結界などはない、単純にそれほどの硬さを誇るということだ。

しかし、館に直撃した別の個体は、中から出てきた人物によって一瞬で破壊される。ついでに巨人たちすら薙ぎ払い、炎を超えて悠然と出てきた女性。


「おはようございます、みなさま。私は大神オーディンの娘、ワルキューレの長女。英霊ブリュンヒルデと申します」


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