無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−18
大橋の架かる谷間に立ち上がったスルトは、その熱によってみるみる周囲の氷を溶かし始めた。橋も部分的に崩落を始めている。
手に持っているのは、神話でも登場する炎の剣だ。
『遅かったか』
「ホームズさん!」
通信からはホームズの声が聞こえてきた。どうやらホームズは理解していたようだ。恐らく、最初のシグルドとの戦闘である程度理解したのだろう。さすがに今回はあの負傷のあとだ、遅くなったのは仕方ない。
唯斗は咄嗟にボーダーを振り返った。今から全力で走って3分の距離だろう。飛び込んでボーダーが急発進したとしても、旧オスロ市域を出ることすらできない距離で、スルトの剣が振るわれることになる。
「…あれは、熱核兵器なみの攻撃だ。虚数潜航じゃなきゃ逃げられない…でも、ペーパームーンは今ボーダーにない」
「なら、私が防ぎます…!」
これはもうだめだ。唯斗はほぼ諦めていた。しかし、マシュはそれでも盾を構える。溶け始めた氷の橋の上、しっかりと踏ん張って盾を毅然と掲げる。
「…すまない諸君。当方の体が迷惑をかけたようだ。償いは、行動によって示すほかないと考える」
「っ、この声は…」
眩い光が周囲を満たし、途方もない熱が降り注ごうとしている。そこに、冷静な声が落ちた。それは、冷静であっても冷酷ではなかった。
「
破劫の天輪!!」
圧倒的な熱量だった光線は、別の熱源によって吹き飛ばされ、橋の大部分を崩落させながらも谷間を暴風となって吹き抜けた。
それによってスルトの光線は消失し、目を閉じていた者たちは恐る恐る目を開ける。
すでにスルトはこちらへの興味をなくしたらしく、北部の山嶺へと消えていた。
呆然としながら、唯斗と立香、マシュ、ナポレオンにアーサーもシグルドを見上げた。
「自己紹介が遅れた。当方はシグルド。貴殿らの命を維持できて嬉しく思う」
どうやら、シグルドの砕けた霊核はオルトリンデが繋ぎ止めてくれたらしい。オルトリンデはもうすぐに限界だと言ったが、これができるあたり、やはり神代の戦乙女なだけある。
シグルドはそのまま、倒れたブリュンヒルデにルーンをかけて一瞬だけ蘇生する。同様にギリギリの現界となっているブリュンヒルデだが、シグルドの腕の中で目を覚ます。
「起きよ、我が愛」
「……いけません。私は、あなたを殺すもの…」
「今は黙っていろ」
そう言って、シグルドはさらにブリュンヒルデに回復術式を施す。現代魔術では為し得ない、原初のルーンによる超回復だ。
「あぁ…あなたは、あなたは、今も、私の愛した英雄のままなのですね」
その温もりに、ブリュンヒルデはそのアメジストの瞳からぽろぽろと涙をこぼす。今やっと、彼女はシグルドに会えたのだ。
「あぁ。だが不甲斐なさを露呈した」
「いいえ。あなたは守ってくれましたよ。盾の乙女を、皇帝陛下を、ブリテン王を、そして人理の少年たちを……世界を救うための希望を」
「無論。だが当方一人では為し得まいよ。あの御方の神威あってこそ」
「然様」
そこに別の声が響く。優雅な所作で半壊状態の橋に降り立ったのは、スカディ。どうやら彼女がシグルドをサポートしていたようだ。
「猛々しき勇士が命を賭して戦う、か。久しく忘れていた光景ではあるな。良き戦いぶりであった。褒めて使わす。命を長らえさせよう、我が城に参上することを許す」
スカディは全員を回復させてから、宮殿へと招いた。
そしてそこで、3000年前のすべてを語った。