無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−20


行動方針が決まればすぐに出発する。
王宮に閉じ込められていたシトナイも共だって、全員がボーダーに乗り込んで北東へと走り始める。

スカディがこちらについたことで、ワルキューレなどの攻撃は気にしなくて良くなったものの、今度は空想樹が完全に根を張るフェーズに差し掛かり、種子を飛ばし始めた。あのガルフピッゲン山で遭遇した不思議な形の物体がそうだったらしい。

甲板でナポレオンとシグルド、ブリュンヒルデ、マシュ、アーサーが種子を防ぎ、シトナイとスカディがホームズをもう少し回復させ、唯斗はスタッフたちの手伝いにあたる。立香は甲板で英霊たちに指示を出していた。
モニターでスルトの動向を見守る唯斗は、急にその動く方角が変わったことで声を上げる。


「スルトが方向転換した!今度はまっすぐ南に向かってる、カールスタード北方10キロ地点!」

『なんだって!?なら空想樹との接続は終わったのか…でもあの熱量ならどこで剣を振るってもいいはずなのに…』


それは唯斗も疑問だ。空想樹との接続が終わったのなら、そもそもその場で事を済ませればいいはず。にも関わらず、わざわざ方向転換してまで何をするつもりなのか。
そこに、甲板の立香から通信が入る。


『多分、第23集落に向かってるって!最寄りの集落がその先、旧ヴェーネルン湖にあるんだ』

『なるほど集落!見せつけるつもりなのか…私たちに…?まぁなんでもいい、そういう意図があるならこちらには好都合!旧ハンマレー近郊で迎撃する!』


ダ・ヴィンチのアナウンスに従って、ムニエルはハンドルを切ってさらにスピードを出す。そして、山を越えて斜面を勢いよく滑り始めると、その先の平野部に向かう巨大な炎と氷の巨人の姿があった。どうやらフェンリルの権能も取り戻したらしい。
氷と炎がせめぎ合う巨人は、その一歩だけで一つの自治体分にもなる。たった一歩で、旧フォッシュハガから旧カールスタード空港付近まで至り、さらに次の一歩で旧カールスタード市街地付近まで到達しようとしている。その先には第23集落があった。


「私はルーンで先行するから!お義母さんもお願い!」

「うむ、よかろう」


スルトに接近していることを理解したのか、治療室からシトナイとスカディが出てきて、そのままハッチを開いて飛び出した。それぞれルーンによって一気に飛行して、今にも第23集落へと炎の剣を振り下ろそうとする巨人に立ち向かおうとする。


『サーヴァントの諸君とマスター二人は総員先行よろしく!』


ダ・ヴィンチも応じて、唯斗はすぐにモニターを離れると上部ハッチに向かい、待ち構えていたアーサーに抱き上げられる。すでにナポレオンや立香、マシュたちは甲板を跳躍して集落へと向かっていた。


「しっかり掴まって、かなり高く飛ぶ」

「任せた」


アーサーは頷くと、唯斗を横抱きにしたまま、甲板を勢いよく蹴った。
途端、冷たい風が頬を切るように吹き付けて、周囲の景色がまったく見えなくなるほどのスピードになる。少ししてから、今度は落下する浮遊感と内臓が置いて行かれる感じがもたらされる。
その頃にはすでに、スルトからの熱を肌で感じていた。

そしてアーサーが着地した直後、スルトの炎の剣が振り下ろされた。まずはそれをシトナイの召喚した巨人が受け止めて、莫大な炎が結界のように閉じ込められる。集落にこそ向かっていないが、周囲の氷の森林は一瞬で昇華した。
その水蒸気が猛烈に吹き付ける中、シトナイは苦しそうに呻く。


「く…っ、反動が重いったら…!そう長くは保たないわ!援護お願い、オルトリンデ、お義母さん!」

「了解、白鳥礼装を緊急起動。人理の英霊からもたらされた影を補助します」

「ならば、神鉄の盾を多数同時に顕現させよう。いずれもかつてあれに砕かれ尽くしたものだが…!」


集落を背後に数キロ地点、雪の平原は熱によって土が剥き出しになっており、そこに全員が熱を顔に受けないよう保護しつつ神代の結界を見守る。
シトナイ、スカディ、オルトリンデそれぞれの術式によって、炎はすべて旧カールスタード方面に流れているが、それでも結界はすでにひび割れていた。どうやらブリュンヒルデとシグルドのルーン補助も行われているようだったが、それでも押されている。

熱量は核兵器数十発分。スウェーデンの中部から南部のスヴェアランドとイェータランド、ノルウェー南部のヴェストラン、ソールラン、エストラン地方すべてを灼熱で焼き尽くせる規模だ。


「マスター、私も行きます!」

「フォローする!


マシュも宝具の展開を行おうとするが、通信ではゴルドルフが無駄だとわめき、ホームズは冷静に賭けるべきだと告げる。
それでもなお足りないであろうことは、誰にも明白だった。

そこに、低い男の声。


「やれやれ。まぁ、必死なのは分かるがな。誰かを忘れちゃあいないかね。影の薄い方がじゃないと自負してるんだが…」


それは、明日を願うこともできなくなってしまった北欧に現れた、誰かの願いに応える男。可能性を体現する英雄の声だった。


「俺が!ここに!!いるぜ!!!」


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