無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−22
ナポレオンの最後の一撃がスルトの魔剣を弾き返し、その爆風がようやく晴れた頃、突然、一同の合間に人影が舞い降りた。
スルトの肩に乗っていたらしいオフェリアだ。
マシュは目元を拭ってからオフェリアに駆け寄る。
「オフェリアさん!今、ナポレオンさんが…!」
「見ていたわ。それに聞こえた。だから…まっすぐに貫かれてしまった、私。すごいのね、彼。今まで見えていなかったものが見えるようになった。今、私が何をすべきなのかも」
そう言って、オフェリアは周りの英霊たちとボーダーに向けて呼びかける。
「シャドウ・ボーダーにいるカルデアの皆さん、それに英霊たち。マシュ、唯斗、それと…ええと……」
「藤丸立香です」
「立香、そう、立香ね。忘れていた訳ではないのです。ちょっと口に出なくて…ごめんなさい、もう忘れません。私たちの大切な後輩ですものね」
オフェリアは柔らかく微笑む。王宮で一度見かけたときは、冷徹であろうとしていたように見えたが、今は肩肘張った様子はない。
「…都合のいいことだと承知した上でお願い。今だけでいい。あなたたちの側に私を立たせて」
そして、オフェリアはそんなことを打診してきた。キリシュタリアのことを様付けで呼ぶくらいには、クリプターとして振る舞っていたオフェリアが、そこまでダイレクトに頼むとは思わなかったのだ。だが、不自然ではない。それくらい、正義感も使命感も備えた優しい人だった。
「頭部の再生が終わってしまえば、アレは再び動き出します。空想樹は、根を張ることでそのテクスチャを地表に広げる性質を持ちます。つまり、このままでは、炎だけが燃え上がるテクスチャが、星を覆います」
『むう…!それはそうだが、しかし、お前は我々にとって敵であり、人類にとってはテロリストであり犯罪者であり…だが前例もある、仕方在るまい。終わったら拘束するからな、抵抗したらただじゃおかないからな本当に!』
「…承知の上です。時計塔の方とは思えない性格ですね、あなたは」
オフェリアがそう微笑んだところで、あとはこのあとのことを速やかに決めるだけだ。まずは確認するべきことを確認する必要がある。
唯斗は実に2年ぶり、先ほどの混乱の際はノーカンとすればグランドオーダー前以来に名前を呼んだ。
「…オフェリア、今スルトとの契約状態だよな。解除は可能か?」
「ええ。令呪はもうないけれど、解除だけなら」
「よし、じゃあ次の攻撃まで、頭部の再生と魔力の充填を含め少し時間がある。その間に決着をつけないと、次の魔剣解放はいよいよ耐えられない」
「同意します。サーヴァントで言えば真名解放に等しい攻撃だから、次の攻撃には時間がある」
時間的猶予があることが確かめられたのと同時に、シグルドはすぐにグラムを構えてルーンを足下に展開する。
「ならば、当方は速やかに攻撃へ転じる。ブリュンヒルデ!」
「はい、共に参りましょう。フランス皇帝陛下が残した虹は、なおも残って私たちの四肢に力を与えてくださっています」
「では行くぞ!」
シグルドとブリュンヒルデは、早速飛行ルーンによって飛び出した。英霊たちの攻撃で畳みかけていく総力戦になる。
一方、サーヴァント契約の解除による魔力供給の停止と存在力の減衰を図る方法について、唯斗はオフェリアを見遣る。視線に気づいたオフェリアは、小さく笑った。
「…あなたなら、もう分かっているのでしょうね」
「…、あぁ。本当は、そんなことしなくてもいいくらい、火力を出せれば良かった。せめてアーサーを万全の体制にできれば…」
「ふふ、あなたもマシュと同じか、あるいはそれ以上に変わったのね。最初からそうだったら、きっと召喚術について良い議論ができたのに…」
「本当にな。もっと前から変われていれば、オフェリアともいろいろ話せた。カドック、マシュ、ペペロンチーノも入れて…でも、そういう後悔も全部、まずはあいつを消してからだ」
「ええ。この場で、サーヴァント契約を断ち切る」
まともに話すことができるのはこれが最後かもしれない。
これからオフェリアが行うのは、自ら魔眼と魔術回路を切断して、スルトの現界を維持している要石となった魔眼の機能を停止させること。
失敗すれば脳死は免れない。それでも、オフェリアは覚悟を決めていたし、それ以外に方法もなかった。