無間氷焔世紀ゲッテルデメルング−23
「オフェリアさん、何を…」
「…良いのだな、オフェリア」
唯斗の会話を聞いていたマシュが不安そうにして、スカディも愁いを帯びた表情で尋ねるが、オフェリアは強い意志でもって、眼帯を外して右目に手を添えた。
「唯斗さん、オフェリアさんは、何を…」
「…スルトは神そのもの、その現界を維持してるのは、オフェリアの魔術回路じゃなく、あの魔眼だ。だから、魔眼の機能を停止させて魔術回路を切断する」
「な…っ、危険すぎます、そんな…!」
「いいのよ、マシュ。ありがとう。でもいいの。これでいいの…」
オフェリアはそう言うと、その魔眼を赤く輝かせた。切断が始まった魔術回路から、大量の魔力があふれ出し、光となって周囲を照らす。
鮮血が瞼の間から流れ出て、オフェリアは苦悶の悲鳴を上げた。
立香は堪らず止めようとする。
「オフェリアさん、もうそれ以上は…!」
「大、丈夫…ッ!まだ、まだよ!最後に、私のセイバー、シグルド、お願い…!あの炎を叩き切って…!」
オフェリアは、スルトだけでなくシグルドともまだ契約が繋がった状態だった。二人分というより、スルトとシグルドが未だに同一の存在として世界には認識されているということだ。
「輝け、輝け、ここに輝け…!私の
大令呪…!!」
オフェリアがそう告げた瞬間、その左手から眩い光が迸り、スルトとの繋がりが消えてシグルドに莫大な魔力が送られた。シグルドの強化具合を見て、唯斗はまさか、と思い至る。
大令呪、聞き馴染みのないそれは、カドックも口にしていた。
直後、オフェリアは倒れる。すぐにオルトリンデが抱えて、ボーダーへと搬送した。
上空ではシグルドとブリュンヒルデがスルトと交戦を開始し、スカディとシトナイの援護で立香とマシュも空中を浮遊して、一時召喚の英霊たちと戦い始めた。
スカディは唯斗とアーサーにも目を向ける。
「お主らはどうする?スルトと戦うか、あるいはオフェリアの治癒に向かうか」
「…大令呪、あれは、術者の命を犠牲にする代物だな」
「……然り。原初のルーンを以てしても抗えぬ死だ」
スカディは、本当に我が子を亡くしたかのような悲壮な表情になった。クリプターであれ、オフェリアのことは個人的に気にかけていたのだろう。
スカディも、本来の神話からも明らかだが、優しい女神だ。
ぐっと拳を握りしめてから、唯斗はアーサーを振り返る。頷いて返してくれたアーサーを見てから、スカディに返答した。
「俺たちも戦う。マシュがオフェリアのところに早く戻れるように。女神スカディ、これが最後だ。あなたはきっと、最後にけじめをつけるんだろう。だからその前の最後の助力を頼む」
「よかろう。聡明であることは良いことであるが、感情を優先することもまた肝要であるぞ」
「ありがとう。でも、大丈夫。あのデカブツに、そろそろ一矢報いてやんねぇとな」
「ふふ、そうか。では行ってくるといい」
スカディは二人の足下にもルーンを展開してくれた。二人の体は浮き上がり、推進力を持つ。さらに、このルーンを通して、スカディがこの北欧に僅かに残された霊脈からの魔力を供給してくれていた。これなら、100%のサーヴァントとしての力を出せるはず。
「っ、すげぇな、これが神か…よしアーサー、ここまで負けっぱなしだった分、一気に返してやろう」
「もちろん」
唯斗とアーサーはそのまま魔力を放出して一気に空高く舞い上がった。
大地が遠くなっていき、熱を帯びた空気が頬を切る。スルトはシグルドとブリュンヒルデ、そしてマシュとエウリュアレの猛攻を受けていた。
煩わしそうに腕を振る度、火の粉が星のように舞う。かつて北欧神話は、そうした神の世界の火の粉が星空を成したのだと考えた。
北欧の魔力、そして令呪1画を籠めてアーサーに命じる。
「アーサー!宝具解放!!」
「承知した!」
カルデア脱出後初めて、アーサーは宝具を解放するのだ。
シグルドの中に入っていたスルトに、何度もしてやられてきたこと、そして、オフェリアをここまでの目に遭わせたこと。それをすべて、この聖剣に託す。
できることなら、ナポレオンにも見せてやりたかった。
「
十三拘束解放、
円卓議決開始」
『承認。ベディヴィエール、ガレス、ランスロット、モードレッド、ギャラハッド』
「…これは、世界を救う戦いである」
『―――アーサー』
スルトの正面に浮かんだアーサーは、魔力を帯びたエクスカリバーを体の前に構える。これから起きることを理解した英霊たちが一斉に離れ、スルトは自分の前に浮かぶアーサー王に気づいた。
アーサー王崩れなどと称したこと、今後悔してもらうときだ。
「
約束された勝利の剣!!!!」
下から上に薙ぎ払うように聖剣を解放した瞬間、聖なる光が北欧に第二の太陽となって広がり、その光線はスルトを直撃する。
氷焔の体は結合部から崩壊し、回復しようとしていた部分も蒸発して空中に霧散していく。
唯斗はアーサーの攻撃モーションが終わった瞬間にシグルドたちに声をかけた。
「シグルド!ブリュンヒルデ!最後に頼む!!」
「承った!為済ますぞ、我が愛!」
「はい、あなた!」
シグルド、そしてブリュンヒルデも、それぞれ最後の一撃をスルトにお見舞いした。
それは閃光となって線を描き、スルトを貫く。もはや、スルトに人型を保っているところなどなかった。
「こ、んな、終わり方、してたまるかあああ!!オフェリアアアア!!!」
その断末魔とともに、スルトの巨体は崩壊し、その熱も氷もすべて、跡形も無く消え去った。
ここに、ついに3000年の時を超えて、黄昏は終焉を迎えたのである。