ノウム・カルデア−3


さすがの気遣いだ。サンソンは一度体を離し、唯斗は召喚術式の前に立つ。サンソンに見守られながら再度詠唱を行い、術式を起動させた。
同時に、中から新たな英霊が現れる。


「ディルムッド・オディナ、ここに。あぁマスター、またお会いできようとは。それが必ずしも幸運なことではないとしても…私はあなたにまたお仕えできること、幸福の至りです」


現れたディルムッドは、間髪を入れず再会できた喜びを口にした。先制攻撃の速さに、思わず唯斗は笑ってしまう。サンソンも苦笑していた。
ディルムッドは微笑んで、するりと唯斗の頬を撫でる。


「…少し、やつれましたね。すでに戦いがあったと見ます、いったい何が…?」

「うん、これから説明する。先にもう一人呼ぶな」


唯斗はもう一人呼んでおこうと、次に呼ぶ人物を思い浮かべる。少し順番は前後するが、ここは王様勢よりも別の人物の方がいい。
まだ霧が晴れていないうちにさらに術式を起動すると、またも魔力の霧が噴き出して、大柄な人影が出現する。


「…よォ殿様!随分とはえー再会じゃねェの!」


呼び出したのは森長可、一番最後に仲間になったサーヴァントだ。
とりあえずこの3人に状況を説明することにする。


「ディルムッド、長可。久しぶり、また召喚に応じてくれてありがとう。まずは世界の状況を説明する。その上で…この先もまた、力を貸してくれるか教えてくれ」


エミヤは理解した上で召喚に応じた。だが他の英霊はそうはいかない。この戦いを自分の是としないのであれば、無理強いはしたくなかった。
決して正義の戦いなどではないのだから。


「…今、世界には『異星の神』っていう謎の存在が降臨しようとしていて、7つの異聞帯…本来剪定事象となるはずが、そのまま継続してしまったイフの世界が出現してる。地表のテクスチャは消失して、人類は再び俺たちを残して絶滅、カルデアもその日に襲撃されて、施設は凍結されてスタッフの半分が犠牲になった」

「な…っ、」


ディルムッドは息を飲む。サンソンも目を見開くが、長可は黙って聞いていた。


「異聞帯は地表のテクスチャを上書きするために互いに競い合っているらしくて、勝った世界がこの地球を覆うことになる。7つのうち2つは、俺たちが攻略済みだ。そんで、彷徨海という時空の狭間にある魔術工房島にやってきて、新しい基地ノウム・カルデアを建設した」

「なんと!すでに2つも異聞帯?とやらを修復なされたのですね」

「…いや、ちげぇな」


ディルムッドはすぐに讃えようとしたが、意外にも長可がそれを否定する。さすがの頭の回転の速さだ、長可はすでに本質を見抜いている。


「特異点とかいうやつは、歪んだ歴史なんだろ。でも異聞帯は、ありえた未来の一つ、何かがおかしいっていう世界じゃねぇ。つまり、それを攻略するっつーのは、殿様たちの手で自ら、剪定したってことだよな」

「……その通りだ。現地で生活していた人々は、俺たちの世界を侵攻する意図なんて持ってない。ただ生きていて、そして、世界ごと俺たちが消し去った」

「ッ、」


サンソンとディルムッドは、ようやくこの戦いの在り方を理解したようだ。絶句する二人は特に正義感の強い人物だ、よその世界を滅ぼして自分たちの世界を継続させる戦いを、どう思うだろうか。

長可は真面目な表情から一転、獰猛にニヤリと笑うと、ガシガシと唯斗の頭を撫でた。


「まっ、難しい話はどうでもいいけどなァ!殿様の敵は俺の敵、異聞帯だろうがなんだろうが、俺は殿様の敵は全部殺すって決めてっからよ!」


長可の強さは、決してぶれない軸による世界の単純化と、それに基づく本質理解の速さだ。それは判断の速さに直結する。
長可にとってはなんであれ唯斗が大事であり、唯斗の敵は御託など関係なしにすべて倒すと決めている。その確固たる意志が強さだ。
そう言ってくれるだけで救われたような気がした。

長可とのやりとりを見ていた二人も意志を固めたらしい。ディルムッドは、その場に跪いた。


「…お優しいあなたのことです、2つの異聞帯の剪定、大変お心を病まれたことでしょう。それでも我々に意思を確認する誠実さ、あなたは何も損なわれてなどいません。我が主よ、私はどんなときでもあなたのお傍に」

「…ありがとう、ディルムッド」


ディルムッドは悲しげに笑ってから、サンソンに続きを促す。サンソンもそれを受けて、小さく微笑んだ。


「僕も二人と同じです。敵がなんであろうと関係ありません。僕はあなたを守るために戦います。どんな世界を敵に回そうとも、僕はあなたを守る」

「っ、サンソンも、ありがとな」


そう言ってくれるであろうことはもちろん分かっていた。それでも確認したのは、はっきりとそう言って欲しかったからなのかもしれない。


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