ノウム・カルデア−4
サンソンたちはいったん召喚ルームを後にして、再び部屋に一人になる。サンソンは医務室へ、ディルムッドは施設を見回りに行き、長可は先に召喚されている信長たちのところへ向かった。
唯斗は続いて、別れ際も一緒だった2騎を呼び出すことにする。
「…来てくれ、アーラシュ」
詠唱とともに呼びかければ、術式は青白く輝いて起動し、そして中から人好きのする笑顔を浮かべた好青年が現れる。
「…よぉマスター!また会えたな!」
「アーラシュ…来てくれてありがとう」
「こちらこそだ。無事だったっつーことは…さすがにセイバーはお前さんを守ってくれたようだな」
「やっぱり分かってたのか」
「いや、カルデアの襲撃までだけだ」
アーラシュは千里眼によって、カルデアが襲撃されるところまでは視えていたらしい。とはいえ、その帰結やその後の世界までは分からなかったようだ。もともとそこまで遥か遠くの未来を見渡すものではないのである。
「…詳しい説明の前に、もう一人だけ呼ばせてくれ」
「おう。ファラオの兄さんか?」
「まぁ、視るまでもないか」
これは千里眼を使うまでもなく分かることだ。アーラシュは苦笑すると、召喚式から出て唯斗の詠唱を見守る。
オジマンディアスとは、まさにカルデア襲撃の日以来となる。
一際大きな霧とともに、とてつもない威圧感と魔力が出現する。相変わらずの風格だが、最初にこうやって召喚したときほど刺々しいものではなく、むしろ安心感を感じるようなものだった。そう受け取れるようになったということだ。
「…まったく、こうも何度もファラオを呼び出すとは、不躾なものよ」
「オジマンディアス…また来てくれてありがとう」
霧から現れた威風堂々たるファラオ、オジマンディアスは、そう言いつつも優しい瞳をしている。足下からはわらわらとアウラード3匹も出てきて、唯斗の足下に纏わり付いた。
「…無事だったようだな」
「おや、ファラオの兄さんも知ってたのか」
「いや、重傷のこやつが余を襲撃のさなかに呼び出したのだ」
「そういうことか」
オジマンディアスはアーラシュにそれだけ説明すると、突然、唯斗を正面から抱き締めた。
あのときは、とにかく逃げることだけを最優先にしていたため、再会できた喜びなど感じている暇もなかったが、今は違う。
落ち着いた環境で、オジマンディアスはねぎらうように唯斗をその白いマントで包むように抱き締めた。
「…よくぞ生き延びた。褒めてつかわす」
「っ!」
「襲撃からここまで、かつてなく過酷な旅だっただろう。よく耐えて生きた」
「…ッ、オジマンディアス…!」
あのとき助けてくれた人だったからこそ、その言葉に涙腺が緩む。思わずそのまま抱きついてしまうと、オジマンディアスは怒ることなく、より深く抱き締めてくれた。
さらにアーラシュも、唯斗の頭を撫でてくる。
「…悪いなマスター、口にするのはなるべく避けたいかと思って視せてもらった。異聞帯…本来剪定事象となるはずだったイフの世界を2つ滅ぼしてここに辿り着いたんだな。本当に過酷だっただろう。特に、優しいお前さんや藤丸にはきついモンだったはずだ」
「ほう、地表から文明が消えたというのは現界に際して理解したが…なるほど異聞帯、斯様なものが、あれほどの旅の末に獲得した世界をまたも滅ぼしたわけだな」
千里眼で唯斗の内心を視て事態を理解したアーラシュも、その説明をすぐに理解したオジマンディアスも、生存のために他の世界を滅ぼしたことについては何も言わない。それを気にせずに力を貸してくれるのだろう。だが、唯斗はきちんと言っておきたかった。心おきなく彼らと旅をするために必要な儀式のようなものだ。
「…俺は、他の世界を滅ぼしてでもこの世界が存続するべきかとか、そういうことは考えない。そこに理由を見出したくない。だから、滅ぼしたっていう事実を全部背負って戦い続ける。それでもよければ、また力を貸して欲しい」
「…そうか。お前さんらしい誠実さだ。つらくなったら俺が逃がしてやるから言えよ」
「勇者よ…お前は意外とそういうところがあるのだな……」
オジマンディアスは、さらりととんでもないことを言ったアーラシュに少し引いたようにしてから、抱き締めたまま少し体を離して唯斗の顔を改めて見下ろした。
「ファラオを見くびるでないぞ唯斗よ。お前はすでに余のものなれば、余が庇護するは当然。何より、この神王の功績をなかったことにした世界など許すわけにもいくまい。気兼ねなく余がお前を伴い異聞帯を駆逐してやろう」
「…うん、ありがとう。またよろしく頼む」
相変わらずなオジマンディアスの言葉はまさに泰然としていて、揺れる唯斗の心を丸ごと受け止めて支えてくれているようだった。
アーラシュも、別れ際にアーサーの覚悟を問うたのは、この未来がある程度視えていたからだったのだろう。その上で、アーサーと唯斗を信じて退去した。そしてまたこうして召喚に応じてくれたのだ。
戦力以上に、唯斗はこの二人がいてくれるなら、この先も戦い続けられると思えた。