ノウム・カルデア−5


オジマンディアスは早速シミュレーターに自分の神殿を構築するために管制室へと向かい、アーラシュは施設内を見て回るために廊下に出て行った。
さすがにそろそろ疲れてきたが、あと3騎だ。今日で全員分を呼び出すことができるだろう。

唯斗は再び召喚術式に手をかざし詠唱を行う。
そうして術式から光と霧とともに現界した騎士は、固い金属の踵の足音を響かせながら霧から姿を現した。


「またお目にかかれて光栄です、マスター」

「久しぶりだな、ガウェイン」


召喚したのはガウェインで、現れるなりすぐに唯斗の正面で膝をついた。
唯斗に促されて立ち上がると、にっこりと微笑む。


「再び世界に危機がやってきたとのこと、現界に際して心得ております。再度あなたの剣となれること、私の誉れです」

「……、ありがとな。詳しい事情の説明をする前に、もう1騎呼ばせてくれ」


唯斗はあともう一人呼んでから、一緒に事情を説明することにした。ガウェインと一緒にしたのは、きちんと制止してもらうためだ。


「ライダー、アキレウス。また会えたな、マスター」


再度召喚を行い、大量の霧とともに現れたのはアキレウスだ。退去にあたって、一番アーサーに対してその覚悟を試そうとしていた。
言葉を選びつつ、唯斗は二人に世界の事情を説明した。

カルデアが査問会中に襲撃されたこと、異星の神という存在、7つの異聞帯と空想樹、そして地表は漂白され異聞帯がその覇権を競っていること。
また、唯斗たちが7つのうち2つをすでに滅ぼしており、それは特異点修復とは違い、その世界を滅ぼすという意味であることを語った。


「…これまでの戦いと違って、必ずしも正義じゃない。それでも俺は戦うつもりだ。よければ、二人も一緒に戦って欲しい」


説明して終えたところで、ガウェインは愕然として、言葉を震わせる。


「…、異聞帯…そのようなことが…マスター、あぁ、なぜあなたが、そんな…あの戦いの報酬がこんな仕打ちであってよいのですか!?なぜ、なぜ…!!」


ランスロットもそうだったが、ガウェインはカルデアに、唯斗と立香に訪れた凄惨な運命にやり場のない感情を溢れさせる。

一方、アキレウスは静かに怒りを滲ませていた。


「……それで?あの騎士王がついていながら、スタッフの半分がマスターの目の前で命を落とし、挙げ句、誰よりも歴史に敬意を払い大事にしてきた唯斗に、イフとはいえそれを滅ぼす戦いをさせてるわけか」

「…アキレウス、」

「騎士王はどこだ。俺はあいつに覚悟を尋ねた。唯斗を本当に守れるのかってな。なのにこの結果か。俺ならカルデア襲撃時点でマスターを連れて脱出していた。それが…なんなんだ、このザマは…!」


噛みしめた奥歯の音が聞こえてきそうなほど、アキレウスは怒りを隠しきれずにいる。こんな状況をみすみす招いて、よりにもよって世界を滅ぼすための戦いをさせていることに、怒りを抑えられないようだ。
ガウェインもそれを見て冷静になる。


「…抑えられよアキレウス殿。マスターはそれを承知で戦い、我らに助力を求めたのです。すでに罪悪感を感じているマスターをさらに追い詰めてどうするのですか」

「…っ、くそ」


ガウェインに諫められたアキレウスは、吐き捨てるように言ったあと、おもむろに唯斗を抱き締めた。強く、深い抱擁に、唯斗の顔はアキレウスの胸元に押しつけられる。


「…本当は騎士王をボコボコにしてやりてぇところだが、あいつがマスターにとって生命線のように大事なヤツだと知ってるからな。マスターのために、あいつをどうにかすることはしねぇ」

「アーサーはずっと、俺を守ることだけに注力してくれてきた。現界を維持するのに精一杯のギリギリの出力で。こうやって生きてアキレウスに再会できたのも、アーサーのおかげだよ」

「……、その点はまぁ、そうだけどよ」


憮然としたようにぶすっとしつつ、アキレウスは怒りを緩めた。もともとその手の感情を長続きさせる男ではない。
唯斗は少しだけ体を離してから、改めて二人に確かめる。


「…この戦いは、前のように正義のためとかじゃない。でも俺は、異聞帯という世界を滅ぼした事実を背負って戦い続けるつもりだし、その重さを忘れない。それでも良かったら、もう少し、一緒に戦ってくれないか」


唯斗の言葉を聞いた二人は一瞬だけ驚いてから、揃って微笑む。


「もちろんだぜマスター!あんたの道は俺が切り開く、安心して前を向け」

「先ほど申し上げたことに変わりありません。私はあなたの剣、必ずお守りします」


そう言ってガウェインは唯斗の左手を取ると、手の甲にキスを落とした。騎士のそれだが、ガウェインにされるとさすがに顔に熱が集まる。
それを見て、アキレウスは再び唯斗を抱き締めてガウェインから距離を取った。


「円卓ってのはどいつこいつも…!」

「おや、ギリシア神話の英雄には言われたくありませんね」


正直どちらにも同意である。
まるで以前のカルデアに戻ったようなやりとりに、唯斗は無性にそのままアキレウスの肩に頭を預けたくなったが、今はまだ、召喚しなければならない英霊が残っている。
ぐっと堪えて、改めてもう一度、二人に礼を言うに留めた。


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