ノウム・カルデア−6
アキレウスとガウェインも召喚ルームを出てから、いよいよ唯斗は次の召喚に臨む。少し緊張するが、ちゃんと応じてくれると信じている。
「…抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。頼む、ギルガメッシュ」
もともとウルクの危機に際して現界した人物だ、その後も「仕事を残したまま退去するのは矜持に関わる」と言って残ってくれていた。
そのため、こうして再び召喚して応じてくれるか、正直分からなかった。
いや、もしかしたら怖いのかもしれない。
異聞帯を滅ぼす戦いというのを目にしたギルガメッシュが何を告げるのか、唯斗は無意識に恐れているのかもしれなかった。アーチャーの英雄王ほどではないが、ギルガメッシュとは裁定者として生まれ落ちた神の子だ。
キャスターのギルガメッシュも、唯斗の戦いを見て何を言うのか。その裁決を下されることを怖がっている自分がいた。
すると、術式は青白く光り輝き、霧が噴き出してオジマンディアスとは別の威圧感を持った人物が現れた。
どうやら、ちゃんと召喚に応じてくれたらしい。
「キャスター・ギルガメッシュ、求めに応じて現界してやった。感謝せよ唯斗、世界を滅ぼす戦い、我も力を貸してやろう」
現れるなりそう述べたギルガメッシュに、唯斗は驚いてポカンとする。そしてすぐに、ギルガメッシュはすべて理解していたのだと知った。
「…そうか、あなたは、最初からすべて知っていたのか。だから、レムナントオーダーにも残ってくれたのか」
泰然と唯斗の前に姿を現したギルガメッシュは、すべて理解したように言った。事実、ギルガメッシュは退去する前からこうなることを知っていたのだ。
その上で、唯斗たちが生き残れる算段だけは残しておきつつ、何も言わずに退去した。何も告げなかったのは、やはりシオンと同じ理由だろう。現界を維持できなくなる以上、自分が用意した策が機能するには、予測通りの状況にならなければならない。
「当然だろう。といっても、我の目はパルスの弓兵のようにはいかぬ故な、視えてしまった、という方が正しいが…して、過ぎたことはもうよい。唯斗よ、再契約前に尋ねる」
ギルガメッシュは、纏う空気を変える。第七特異点で同じように問われたときを思い出して、自然、背筋が伸びていた。
「汎人類史が異聞帯を滅ぼし継続する、その理由はなんだ?なぜ貴様は戦う。どちらも様相は違えど、正当な歴史であろう」
やはり、ギルガメッシュは何らかの裁定を下すつもりらしい。力を貸すに値するか否か。だがその質問は思ったほど難しいものではなかった。きっとこれは、ただの確認なのだ。なんだかんだと助けてくれたこの賢王が、改めて力を貸すための、真に儀式である。
「…理由はない。死んでいい理由も滅びていい理由も、あっちゃいけないから。正しいから続いて間違っていたから滅びた、っていうものじゃないことは、あなたのウルクで改めて理解したことだ。だから俺は、理由もなく異聞帯を滅ぼす。そして、その事実も、罪の意識も、全部背負って生きていく。忘れずに戦い続ける。そのためにもう一度、力を貸して欲しい」
「……フン、よかろう。相変わらずの生意気さだ。それに免じて、この賢王がお前を守ってやる名誉、改めて感じるがいい」
ギルガメッシュはニヤリと笑うと、唯斗に合格を言い渡す。恐らく、召喚に応じて再会してすぐ、唯斗の顔を見て、なんら本質が変わっていないことを理解してくれたのだろう。
もう一つ、唯斗は訂正する。
「改めて、っていうか、引き続き、って感じだな。あなたに守られたから」
「ほう?」
「…生きていく術を教えてくれただろ。ギルガメッシュから直接、ではなかったけど、ギルガメッシュに言われたから、アーラシュやアキレウスに狩りや捌き方を教わったし、そのおかげでロシア異聞帯もなんとかなった。ギルガメッシュに守られてるって感覚が、すごく安心した。だからありがとう、俺のこと、ずっと守ってくれて」
ギルガメッシュは一瞬だけ目を見張ってから、防具をしていない方の手で唯斗の頭をぽん、と撫でる。
「…ならば、その分の謝礼の奉納を受けるためにも、ここに留まらねばなるまいな」
ギルガメッシュにしては随分と甘い言葉だ。その優しさをくすぐったく思っていると、ふと、ギルガメッシュは思い出したように口を開いた。
「あの魔術師めの召喚は試みたか」
「マーリンのことか?」
「あぁ。あやつは当面、召喚には応じられぬぞ。世界は確かに再度滅びた状態だが、肝心の本体が出てこられない故にな」
「出てこられない…?」
「追々分かるだろう」
どうやら、前のようにアヴァロンから徒歩でやってくる、というようなことも、無理矢理カルデアの術式から出てくることもできない状態にあるらしい。
ダ・ヴィンチの観測では、英国にも異聞帯が出現しているとのことだ。もしかしたらそれと関係がある可能性があるのかもしれない。
「…そっか」
「ええい、また斯様なあざとい顔をしおって!そもキャスターは我だけで十分であろうが!」
しばらくマーリンとは会えない、と分かって、少し気落ちする。確かにろくでなしで、他のサーヴァントたちも口を揃えてあまり甘やかすなと言われるマーリンだが、唯斗にとっては大事な人であることに変わりはない。
そんな唯斗を見てギルガメッシュがまったく痛くないデコピンをしてくる。それも以前のカルデアを彷彿とさせるやりとりで、唯斗は今日、久しぶりに前のように笑顔になれているな、と自覚した。