ノウム・カルデア−7
一通り召喚を終えたその日の夜、唯斗は立香に部屋に呼ばれていたため、夕食やシャワーを済ませてから立香の部屋を訪れた。
まだ清姫や静謐のハサンなどは呼んでいないらしく、部屋に侵入しているサーヴァントはいないそうだ。
「ごめんね、こんな時間に」
「気にすんな。まぁ、察しはついてるしな」
「…、そうだよね」
へら、と立香は情けなく笑ってからベッドの縁に腰掛ける。唯斗もその左隣に座った。
このタイミングだ、立香の状態もよく分かっている。
かつて、新宿での特異点探索を終えたあと、立香はロマニの不在を痛感し、グランドオーダー後の混乱も済んで感情が落ち着いたことで、時間神殿でのロマニの最期を直視して動揺していた。
その後、下総に夢の中で飛んでしまったときも、意識が戻ってきてから、助けられなかった多くの人々のことを思い出して、己の無力さを見せつけられ、心が参っていた。
大切な人を亡くしたことや、自分の至らなさ故に多くを助けられなかったことは、ある意味受動的な出来事でもあるため、一度泣くなり話すなりすれば発散できることだった。
しかし今回は違う。ロシアと北欧、二つの世界を滅ぼしてしまったことへの罪の意識は、過去の2回とはまったく異なる心境のはずだ。
「…唯斗はさ、異聞帯の戦いへの覚悟決めるの、すごい早かったよね。ロシアではもうしっかり覚悟決めてたじゃん」
「一応そうだな」
「どうやったらそんな割り切って覚悟できるの?…こんなん聞くの、本当はナンセンスで良くないのは重々承知してるけどさ。俺と唯斗しかいないから、良かったら聞かせて欲しいなって。もちろん、嫌だったら答えなくていいよ」
立香の言うとおり、本来ならば気遣いのできる立香がこんなことを他人に聞くことはしない。
「どうやったら世界を滅ぼす覚悟を決められたのか」という質問に他ならないため、それを尋ねるのは、言葉だけなら相手を遠回しに批判しているようですらある。
そうならないのは、二人がマスターであり、唯一、互いに同じ経験や感覚を共有できる間柄だからだ。これが純粋な疑問だと唯斗も十分理解している。
「…何も、特別な考えに至ったわけじゃない。ていうか、別に新しい価値観を閃いた、とかじゃない。今までの価値観の延長戦でしかないんだ」
「今までの価値観?」
「立香がいるところで話してこなかったから、初めて話すかもな」
いずれもギルガメッシュに問われたことがきっかけとなり、明確な答えを得られたものだ。つくづくあの賢王が見ている世界は別格である。
「…第七特異点で、俺は立香に、ケツァル・コアトルの太陽石を壊さないように頼んだことあっただろ」
「あぁ、うん。それで俺がダイブしたときだ」
「ロマニに叱られたやつな」
「途中で通信切れたからノーカンだって」
小さくお互いに笑ってから、唯斗は話を続ける。慣れないことはするものじゃない、とロマニもきっと嘆いたことだろうが、彼の気持ちは唯斗も立香もちゃんと分かっていたと思う。
「あれをギルガメッシュも玉座で聞いててさ。あのあと、ギルガメッシュに問われたんだ。アステカは滅ぼされた文明で、その滅びの運命そのものを否定することはしないけど、ただ立香に再現して欲しくなかったっていう俺の言葉について。ウルクは滅びる運命にあるけど、それに抗うために民も王も戦っているのはどうなんだって」
「そんなこと聞かれてたんだ…」
「あのときは単純に興味半分だったと思うけどな。そんで、俺は、正しいから継続されるわけでも、間違ってるから滅びるわけでもないんだから、抗うことは無駄でも無意味でもないって答えた。どのみちメソポタミアは滅びるものだけど…それでも、それに抗う人の営みは間違いなんかじゃない」
「…うん、俺もそう思う」
最後まで戦い続けたシュメールの人々。あの第七特異点は、立香にとっても唯斗にとっても、大きく成長することになった場所だった。