ノウム・カルデア−8


「それからグランドオーダーが終わって、アガルタを探索してたときに、またギルガメッシュから問われた。桃源郷が焼かれた次の日、多分それがライダー…コロンブスによるものだって当たりをつけててさ。それを知って、ギルガメッシュは、コロンブスの奴隷売買だけじゃなく、浪費、密告、恐怖政治…そういった人類史の負の側面が詰まったアガルタの光景をどう思うかって。人類史は、それでも守られるべきものなのかって」

「…ひょっとして、」

「あぁ、そのときにはもう、ギルガメッシュはこの未来を知ってたんだと思う。俺に狩りの仕方や動物の捌き方を知るように言ったのもアガルタだったんだ」


立香もギルガメッシュの意図に気づいたようだ。アガルタでのことだけでなく、抜き打ちレイシフト訓練や資料整理、そして当時は知らなかったが、霊基グラフやシャドウ・ボーダーの整備も手伝ってくれていたのだろう。


「…確かに、人類史には唾棄するべきこともたくさんあった。たとえば、ロシアで話したルワンダ虐殺やリヴォニア帯剣騎士団の民族浄化もそうだし、北欧でもストックホルムの血浴事件とかあった。これまでの特異点で話した歴史にも、戦争、虐殺、侵略、そういったものが歴史を転換させてきただろ」

「……うん。俺も唯斗に教えてもらったり自分で勉強したりして、これってどうなんだろう、って思うことはたくさんあった。ロシアで雷帝に覚悟を問われたとき、そういうものが頭によぎって…ボイジャーにもさ、人類の記録が詰め込まれたゴールデンレコードが搭載されてるでしょ?あれを聴いた宇宙人が実際に地球を見たときに、どう思うんだろ、なんて思ったこともあったんだ」


宇宙探査機ボイジャー2号機に搭載されたゴールデンレコードには、人類の音楽や言葉などが記録されている。ボイジャーが宇宙人に邂逅した際に、地球の情報を伝達するためだ。


「そうだな、ボイジャーが打ち上げられた1977年当時、たとえばカンボジアでは国民の3分の1が虐殺されたわけだしな。そういうこと考えると、絶望したくなる気持ちも分かる」

「俺よりもずっと、負の側面だっていっぱい知ってるよね、唯斗は。それでも、ギルガメッシュ王になんて答えたの?」

「同じだよ。正しいか間違ってるか、それは人類史の運命を決める理由にはならない。後から正しかったか結果が出ることはあっても、間違ってるから滅びるべきだとか、連綿と続いてきたから正しいとか、そういうんじゃない。そもそも、正しさの定義なんて時代とともに移ろうものだ」

「確かに…」


正しさはそもそも普遍的なものではない。そんなもので、長い歴史の是非を判断するなど合理的ではないだろう。

唯斗はなんと言ったものか、と言葉を選びながら、自分の考えを述べる。ロシアでは詳しい話などをする余裕は無かった。


「…世界と世界、汎人類史と異聞帯、そういう大きなスケールで考えると、確かに善悪二元論で考えることも出てくるかもしれない。けどさ、結局のところ、大事なのはそこに生きている命があることだろ。立香にとって大切なことは、その世界で生きる人々のことだろ」

「………うん」

「俺にとってもそうだ。いや、そういう考え方をするべきだと思った。これは多分、立香の影響だ」

「俺の?」

「人の命なんて考えてこなかった俺がそれを考えるようになったのは、立香がいつだってそれを何より大切にしてきたからだ。そんなお前の隣にいたから、いつの間にか俺もそうなってた」


そうだ、そもそもこういう考え方は立香のお家芸だったはずだ。いつしかそれはカルデアスタンダードとなってホームズやゴルドルフを驚かせたものだ。


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