人智統合真国シン−2
ボーダーは無事に浮上に成功し、旧湖北省十堰市に到着した。日没後のようで、辺りは暗い。
十堰市は比較的に最近に建設された都市であり、漢水流域に位置する。漢水は長江で最も大きな支流であり、武漢で長江と合流する。
かつて、天の川は漢水の蒸発した気が天に上ったものであり、地上の川を映したものとして考えられていた。この考えは韓国や日本にも伝わる。
英語ではミルキーウェイ、すなわち道として考えられた銀河の姿は、北東アジアでは川に喩えられたわけである。天の川の由来こそがこの漢水ということだ。
この異聞帯では、漢水は流れているものの、辺り一面は麦畑が広がっている。人口340万人の大都市であるにも関わらず、集落すら見受けられない。
まずは霊脈に召喚サークルを確保するべく、ボーダーは陸上を走行して近くの村に入ったが、そこで現地住民と軽く諍いになってしまった。
哪吒とマシュ、アーサーは峰打ちで済ませたため、こちらに敵意がないこと自体は向こうも理解しているようだ。
いったんボーダー内部に戻って、このあとの出方を協議することになり、ホームズはちらりと窓から集落を見遣った。
「今は遠巻きにこちらの様子を窺っています。あちらも責任ある立場のようです」
「う、うむ、とりあえず迷い込んだ旅人ということは理解できる教養があるようだな。しかし…サーヴァントの方はどうなっている?霊脈を抑えたのなら呼び出せるのだろう?」
『外で私とムニエル君で調整中だよ!シオンに借りたブースターで、一度に3騎分は呼び出せるはずだ』
屋外の霊脈でダ・ヴィンチとムニエルが召喚術式をくみ上げている間、残るメンバーは中で待機する。いったい誰を呼び出すか、という話になってくるが、「洗脳できるキャスターを呼べ」と言ったゴルドルフに、立香は渋る。
「洗脳はちょっと…なるべく話し合いで穏便にいった方が…」
「俺も立香に賛成だ、第一、洗脳するならこの集落全員に対してやる必要があるし、よその集落の人間とコンタクトすると解けるかもしれない。時限爆弾みたいなもんだ」
「ミスター雨宮の言うとおりですよ所長。藪をつついて蛇を出す、ということもありましょう」
唯斗、ホームズの意見に、ゴルドルフはそれもそうだと納得はしたようだが、それでも渋面を浮かべる。
「ではその交渉を誰がやるというんだね?先ほど戦闘したキリエライトや藤丸ではダメだったのだろう。いったい、この中の誰が天使のごとき笑顔で相手を黙らせられると…」
ゴルドルフがそう言ったところで、ちょうど帰ってきたダ・ヴィンチがハッチから中に入ってくる。全員の視線を浴びたダ・ヴィンチはキョトンとしてから、とりあえずといった感じでニッコリと笑った。
ちょうどいい人材が見つかったところで、ダ・ヴィンチは村の駐在という人物を含む責任者たちに事情を説明した。困り顔で嘘ギリギリのところで説明するダ・ヴィンチに、男たちは「そっか〜」とご満悦だ。仕方ないと言わんばかり、いや、実際にそう言い始めた。
一方、それを見ていた女性たちは憤慨している。
「まったく、なんだい男衆は鼻の下伸ばしちゃってさ!あんなよそ者にあっさり言いくるめられちゃって」
「そうだよ!絶対怪しいじゃないか」
集落の中央でデレデレとしながらダ・ヴィンチを全肯定する男たちと、それを遠巻きに見て悪態をつく女性たち。すかさずホームズは唯斗を見た。
「門のあたりの女性たちは私が宥めよう。ミスター雨宮は騎士王と集落奥のご婦人方を」
「え、俺も?」
「アジア系の方が受けはいいだろう」
それは確かにそうだが、そもそもコミュニケーション能力に問題がある。しかしホームズはすでに村の入り口にいる数人の女性たちのところへ向かっていた。
仕方なく、唯斗はアーサーとともに村の奥にいた3人の女性のところへ向かった。