人智統合真国シン−3


「あー…こんばんは、お騒がせしてすみません」

「不躾な訪問となり失礼しました、マダムたち。我々は旅の者なのですが、道に迷ってしまいまして」

「あ、あら、そうなの?」


女性たちはアーサーに釘付けだ。この顔面は確かに、少し常軌を逸している。
唯斗はアーサーのおかげで心の壁を秒殺された女性たちに、この場所に関する情報を聞くことにした。


「お姉様がた、とても働き者の素敵な手をなさっていますね。誠実に仕事と向き合っておられるのでしょう、素晴らしいです」

「い、いやねぇ、そんなお姉様なんて」

「もう、本当、困っちゃうわ」

「お世辞がうまいんだから」


アーサーからものすごい視線を感じるが、唯斗は表情が引き攣らないようにしつつ会話を続ける。


「世辞ではありませんよ。当たり前のような麦畑の豊かさですが、それは決して当然のことではない努力の証です。努力を重ねる女性は等しく美しいものですから」

「…マスター……?」


ちなみにこれはガウェインの真似である。必死に脳内でエアガウェインに喋らせているところだ。
歯の浮くような台詞に鳥肌が立ちそうになるが、女性たちは頬を染めて満更でもなさそうにしてくれている。


「もう、天子様の下賜や栄光あってのものよ、なのにそんな…」

「こんな男前二人に言われちまったらそういう気がしてきてしまうよ」


天子、と言ったことから、現在この中国は19世紀末の帝政崩壊を経験せず、いまだに帝政が続いていることが分かる。
服装や住居の様子からして紀元前の生活様式だ。ならば、候補は絞れる。


「ここがどのあたりか確認したいのですが、都は太陽の昇る方角にあるんでしょうか?」

「いいや、漢水の上流の方向さ」

「っ、そうですか。ありがとう」


唯斗が話を終えたことを察したのか、アーサーもにこやかに笑う。その笑顔は、世界文化遺産にでも登録されそうな代物で、女性たちは一斉に顔を赤らめた。


「お話をありがとうマダム」


そうして二人はボーダーに戻るが、アーサーはハッチから中に入るなり、唯斗に圧をかける。


「…さてマスター。今のは誰の入れ知恵だい?」

「入れ知恵って…教わったとかじゃないけど、ガウェインの真似した」

「……なるほど。ランスロット卿の真似をしなかったことは褒めてあげよう」


まるで口説くような言葉の数々に、アーサーは誰かが唯斗に仕込んだものだろうと疑ったようだったが、唯斗の必死の演技だったと理解して圧を引っ込めた。
なぜ唯斗が弁明するようなことになるのかと少し憮然とする。


「…ちょっと笑うだけで視線独り占めする天然王子様には分からないだろうけど、こちとら必死だったっつの。つーか、最後あんな思わせぶりな笑顔必要だったか?あんなんコロッと落ちるだろ」

「おや、嫉妬かい?」


ぶすっとして言った唯斗に、今度はアーサーは機嫌を直して微笑む。今度は本物の笑みだ。やはり破壊力が違う。
とはいえ、慣れた唯斗にはあまり効果はない。視線をそらして不満を隠さずに答える。


「別に嫉妬とかはない、お前の顔がいいのは百も承知だしな。でも俺のアーサーなんだから、余計な感情引っかけるようなことすんなよ」

「…マスター……」

「……あ、」


そして、つい口が滑ってしまった。あまりに直截な言い方をしてしまった。途端に顔に熱が集中して、もっと視線を合わせられなくなる。


「ふふ、すまないね。僕は君のセイバー、君のものだからね」

「うるさい……」


あまり顔を見られたくなくて、顔を隠すようにアーサーの鎖骨辺りに顔を埋める。

そこに、極めて呆れたようなダ・ヴィンチの声がかけられた。


「おーいそこのバカップル、イチャついてないで情報の一つや二つ持ってきたんだろうね〜?なんの成果もなかったらムニエル君がキレるぞ〜」

「見せつけやがってよ…!!」


そこで初めて、唯斗は衆人環境だったことを思い出す。大半のスタッフはニヤニヤとしており、ムニエルはなぜか悔しそうにしている。マシュと哪吒は微笑ましそうに、立香とホームズはからかうように、ダ・ヴィンチとゴルドルフは呆れたようにしている。

一瞬人理もなにも放り出して死にたくなった唯斗だったが、なんとか込み上げた羞恥心を心の奥底に封印指定した上で、先ほど得た情報を伝えることにする。


「…っ、悪い。あー、多分ここは周、秦、前漢のいずれかが現代まで継続した世界、っていうのが現時点での見立てだな」

「ほう、そこまで絞れたのかね」


ホームズは興味深そうに唯斗の見解を聞く。ダ・ヴィンチはペーパームーンを起動して中国中原の地図を表示する。


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