人智統合真国シン−4


「さっきの女性たちは、天子様と言った。称号の天子は、公式には周王が名乗るもので、始皇帝からしばらくの間は皇帝という称号だけだったけど、やがて皇帝の別名として天子という名称が復活することになる。とはいえ民衆の間では天子という呼び方が残存したことも考えられる。生活様式を見れば紀元前であることは明白だから、文明が成長せず継続したとすると、紀元前かつ君主の称号が天子である時代から分岐したってことだ」

「なるほど。でも、春秋戦国時代は小国が群雄割拠していただろう?3つに絞れるものかな」


ダ・ヴィンチはこの時代の混沌とした中国を思い返して首をかしげるが、そこを確かめるために質問をした。


「この十堰市を支配下に置いたのは、漢水の小国もしくは楚、秦だ。そこで、天子の住まう都の位置は、ここから見て太陽の昇る方角にあるか否かを聞いた。ここから太陽の昇る東にあると答えれば、十堰の東、河南省周口市、つまり楚の都である陳が該当する。でも女性たちは、漢水の上流方向と答えた。つまり現在の陝西省西安市。古代中国の鎬京、咸陽、長安だ。もしも北の方角を答えれば河南省洛陽市だから、周の東遷後ってことだったけど、そうじゃないなら、鎬京時代の西周、もしくは秦、前漢だ」


都の位置が東なら楚、北なら東周だったが、北西方向を答えた。つまり、現在の西安近郊に点在していた鎬京、咸陽、長安のいずれかであるため、西周、秦、前漢が候補に挙がる、というわけだ。
ホームズは納得したように頷く。


「なるほど、理に適った推理だ。周が衰退せずに継続した、秦が滅びずに続いた、あるいは前漢が後漢にならずに続いた…考えられるケースは多くある。核となる存在にしても、周の文王、武王、秦の穆公、孝公、恵文王、始皇帝、前漢の劉邦…さすがに分からないな。時代の考察はここまでにしておこう。さてダ・ヴィンチ、サーヴァント召喚の方はどうだ?」

「それが、先ほどこの世界の座への接続を試みたんだけど…反応が無かったんだ」

「…なんだって?」


ホームズが聞き返すのも無理はない。唯斗もダ・ヴィンチの言葉に、北欧と同じかもしれない、と思い至る。
ダ・ヴィンチは唯斗の方を見て意見を求めた。


「唯斗君はどう思う?召喚術の名家としては」

「…、英霊の座、正確には境界記録帯が応答しなかったってことは、単純に考えれば、この異聞帯では『英霊の情報が記録されていない』ってことになる。北欧は、人々が何かを願う余地のない鳥かごのような世界だったから、英霊が存在しなかった。もしかしたらそれと同じかもしれないけど…でもここはあんな過酷な環境じゃない、豊かな中原のままだ。少なくとも2000年は継続しているであろう文明に英霊が記録されないなんて、ちょっと考えられないな」

「なるほどね。ホームズは…あぁ、その顔はまだ答えないつもりだね」

「もちろん。探偵が推測を語るのは確固たる証拠が揃ってからだ。とはいえ、概ねミスター・雨宮の意見には同意する。ただ、まだ情報収集が必要だ」

「それもそうだ。とりあえず、霊基グラフから直接カルデア所属の英霊を呼び出すことにしたから、応答してくれるまで待っていて」


とりあえずその日のうちはそれで結論とし、日が昇って明るくなるのを待つことにした。太陽が昇れば、ドローンを飛ばして西安方面を観測できるからだ。

少しだけ仮眠を取って翌朝、ダ・ヴィンチから驚愕の結果がもたらされる。

都とおぼしき都市の座標は現在の西安北西、咸陽だと断定。その時点で秦だと判明する。
しかしその咸陽の市街地上空には、信じられないほど巨大な鉄の構造体が浮かんでいた。

原始的な生活を営む農村部と、明らかにオーパーツな浮遊要塞のような構造物のある咸陽。恐らく天子は始皇帝あたりだろうと予測はついているが、現実離れした咸陽の姿に、事前の想定がどれだけ意味を持つのか疑問に思えてきた。


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