始まりの惨劇−9


廊下を走ること数分、壁際に追い詰められるゴルドルフを発見した。オプリチニキたちは巨大な鎌を振りかざしており、唯斗は咄嗟に結界を展開する。


「生きていたとはやるじゃないか、ミスター・ゴルドルフ!」


ダ・ヴィンチは口笛を吹いて生き残ったことを称える。ゴルドルフは驚いたようにこちらを見上げていた。
すかさずアーサーがオプリチニキたちを次々と薙ぎ払う。

ただの剣での攻撃であるにも関わらず、素の膂力の強さと圧倒的な剣捌きにより、あっという間に敵兵はゴルドルフの近くからいなくなった。


「なっ、キャスター!?さらにデミ・サーヴァントの小娘に、みそっかすの藤丸、禁忌の雨宮まで!?それにもう一人英霊がいたのか!?いったい、これは…!」

「助けに来てしまったのさ、信じられないかもしれないがね。お礼なら立香君に言うといい」


ゴルドルフは何やら喚いているが、すでにアーサーはオプリチニキを掃討し終えていた。


「マスター、急ごう」


アーサーはゴルドルフには目もくれず、唯斗にだけそう言った。暗に眼中にないと示している。ここまでアーサーがあからさまな態度をすることは珍しい。アーサーもこの惨状に怒りを募らせているのだろう。


「敵性反応はない、立香、マシュ、行くぞ」

「うん、行こう!」


ゴルドルフを加え、再び来た道を全速力で走る。左肩はじくじくと痛み続けているが、コンテナに着くまでは治癒はしていられない。唯斗も、オジマンディアスの召喚でかなり魔力を消費している上に、アーサーの現界を支える力もあるため、いつもより数段早くきつい状況になっていた。

しかし、一同の行く手を阻むように、廊下を塞ぐ兵団が現れた。先頭にいるのはコヤンスカヤだ。


「はーいそこまで♡残念だけどゴールテープは諦めてね〜」

「コヤンスカヤ…!」


どうやら、この事態の首謀者はコヤンスカヤだったようだ。この期に及んでゴルドルフはコヤンスカヤが囚われていると勘違いしていたが、マシュが否定すると、くるりと手の平を返して「この女狐め!」と唸った。


「まぁ、閣下。ちゃんと私たちの関係はWin-Winだったはずですよ?それなのに女狐だなんて、さすがに怒りで自慢の毛皮が逆立ってしまいますわ?」

「立香君、下がって。オプリチニキの特性は理解した、この数なら私一人で…」

「なるわけないでしょう?こちらには無敵の皇女様がいるんですから」


その言葉とともに、コヤンスカヤの背後からアナスタシアが現れた。冷徹な表情に感情はなく、大事に抱いた人形をぎゅっと握る。


「ヴィイ、私が願います。私が呪います。魔眼を解放しなさい」


その瞬間、人形から魔力が放たれ、一瞬で廊下が凍りづけになった。咄嗟にダ・ヴィンチが結界防御を張って唯斗たちが凍ることはなかったが、一気に温度が下がり、吐く息が白くなった。


「キャスターか…立香、ダ・ヴィンチとアーサーで行くぞ」

「分かった!ダ・ヴィンチちゃん!」


ダ・ヴィンチには立香が、アーサーには唯斗が指示を出して、アナスタシアとの交戦を開始した。ダ・ヴィンチの杖から光線が放たれ、アーサーが剣で斬り掛かる。
それに対して、オプリチニキが邪魔をしつつ、アナスタシアは無造作に氷柱を突き出してダ・ヴィンチたちの攻撃を撥ね除けた。
アーサーの剣も、近づくことができずに届かない。これまでであれば、魔力によってどうにでもなったが、ただの剣ではあの氷柱を砕くには時間がかかる。

コヤンスカヤは呆れたようにする。


「汎人類史のサーヴァントが異聞帯のサーヴァントに敵うはずがないでしょう。生き延びた年月も、生存してきた環境も違うの。人生ハードモードを舐めないで。まぁ、イージーモードのあなたたちにしては頑張った方ですけれど」

「分かりやすい慢心をありがとう」


ダ・ヴィンチはそう不敵に笑うと、突然、閃光弾を炸裂させた。器用にアーサーを含むこちら側には防御術式を展開してからの使用によって、隙が生まれる。
その間に、全員でオプリチニキの横を通って地下へと続く階段に走り抜けた。


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