人智統合真国シン−5


日が昇ってから咸陽の有様を確認したあと、今度はコヤンスカヤが連れてきたと考えられる、他の異聞帯の魔獣が集落を襲ってきたため、これを撃退した。
コヤンスカヤ自身の姿はどこにも見当たらないが、この魔獣はヒントになるであろうことから、まずはこれを調査することが小目標となる。

しかしそれを実行に移す前に、咸陽から突如としてミサイルのようにしてコンテナが射出された。農民曰く「下賜」とのことだが、そこにはマスターとサーヴァントらしき生体反応があるという。

いよいよこの異聞帯のクリプターとの会敵ということで間違いない。
立香とマシュ、唯斗、アーサー、哪吒は臨戦態勢でコンテナの落下地点近くに移動した。

直後、コンテナは空き地に落下し、轟音とともにひしゃげる。その直前、二人の影がカルデアの前に着地した。
ホームズとダ・ヴィンチは現れた二人に動じることはなく、冷静に見つめた。


「あぁ、やはりお出ましか。クリプター…」

「あれは芥ヒナコだね。なるほど、中国は彼女の領域だったか」


長い茶髪に眼鏡姿の少女、芥ヒナコだ。いつも文庫本片手に物静かに過ごしていた人物だったが、今はあからさまな敵意をこちらに向けている。

マシュは3人目となる元Aチームのメンバーに表情を曇らせた。


「芥さん…」

「ふん、真顔か。マシュ・キリエライト。下卑た笑いでも浮かべているかと思ったが」

「笑いません、私はあなたたちとの敵対を楽しんでいるわけではありませんから」

「ならば一層に度し難い。己の行いを恥じぬ思慮すら持たぬ獣ども。私は貴様らを憎むまい、蔑むまい。そのおぞましさ、心を動かすに値せぬ。ただの害虫として駆除するのみだ」

「そんな…」


傷ついた様子のマシュに、ヒナコはまったく動じず睨み付けている。ダ・ヴィンチも驚いたようにしていたし、唯斗もつい呆然とする。


「君…本当にあの芥ヒナコか?カルデアにいた頃の記録とは別人じゃないか」


そう、その言動は周囲と一線引いているものの、決して敵対するようなものではなかった。感情を動かした様子などもとより見たことがなかったが、ここまで明確に敵意を向けるようなこともなかった。


「…ダ・ヴィンチ、殺されたというのは本当だったのね。まぁいいわ。セイバー、我が僕よ。あれらを消し去れ。これ以上、私の目を汚すでない」

「承りました、マスター」


凜とした声に立ち姿、中華圏のセイバーらしいサーヴァントは、少年か少女か分からなかったが、仮面をしてもなお、その秀麗であろう顔立ちを隠せていなかった。
剣を構えたセイバーに、マシュは盾を構える。


「来ます、マスター…!」

「マシュ、哪吒は先行して迎撃!エウリュアレ!」


立香はすぐにマシュと哪吒に指示して、こちらに俊敏に駆けてきたセイバーを迎撃させる。その間に、一時召喚でエウリュアレを呼び出した。

唯斗も、今回からは一時召喚ができる。


「アーサー、エウリュアレの矢を避けながら哪吒のリーチ外から近距離攻撃。エミヤ、来てくれ!」

「呼んだかね」


アーサーはすぐに応じてセイバーのところへ走り出した。一方、現れたエミヤはいつも通りで、それがあまりに久しぶりに感じられた。思えば、一時召喚はレムナントオーダー中もできなかったため、実に時間神殿以来の戦い方だ。


「…この感じも随分久しぶりだな。エミヤ、相手の攻撃モーションの隙を狙って狙撃」

「了解した」


エミヤは弓を出現させると、剣を矢として宛がってセイバーに向ける。
すでにエウリュアレの攻撃の合間に哪吒とアーサーの打撃が連続して入っており、さらにマシュが追撃を許さない。多勢に無勢だ。
エミヤは、セイバーが跳躍して哪吒に斬り掛かろうとしたところに、重い剣の矢を放って爆破する。

その爆発で吹き飛ばされたセイバーは、ヒナコの傍に着地した。
ヒナコは忌々しげにこちらを睨み付ける。


「これは、カドックやオフェリアが遅れを取るわけだ。サーヴァントを使った戦闘に慣れている。こればかりは経験がものを言ったわね」

「マスター、継戦は下策です!」

「侮りすぎたか…!撤退するわよ」

「はっ!」


ヒナコはあっさりと引き下がり、セイバーとともに撤退した。
勝てる戦いしかしない、ということだろう。カルデアにいる頃は戦い自体に不慣れだったはずだが、やはり異聞帯での状況が彼女を変えたのか、あるいはすべて演技だったのか。

見知った相手であるはずなのに、得体の知れないものに変わっていることが、無性に不安に感じられた。


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