人智統合真国シン−6
いったんボーダーに戻ってから、再度このあとの行動を考えるブリーフィングを開いた。本来は魔獣の調査を予定していたが、このままボーダーを留守にするわけにもいかない。
ヒナコたちは近くに陣を気づいているようであり、さらに、咸陽か再びロケット弾がヒナコたちの方へと飛んでいくのも確認できた。恐らく増援だろう。
「ということで、叛逆三銃士を連れてきたよ!」
「叛逆三銃士?」
こちらも戦力増強を、ということで、ダ・ヴィンチはようやく召喚に成功した3騎を引き連れてハッチからボーダー内に戻ってきた。マシュとムニエルが声を揃えて聞き返す。
何か始まった、思いつつ、ダ・ヴィンチが連れてきた3騎に視線を向ける。
「円卓の叛逆児、モードレッド!」
「うっす、よろしく!」
「奴隷剣闘士の解放者、スパルタクス!」
「圧制者と聞いて!!!」
「始皇帝暗殺の専門家、荊軻!」
「……いや待て、ちょっと待て。何この私の扱い?」
やってきたのは、モードレッド、スパルタクス、荊軻という極めて妥当な人選だった。打倒だが、最後に紹介された荊軻は納得いかなさそうだ。それもそうだろう。
「打倒秦だろう?始皇帝だろう?もう一度、あの男を殺すのだろう?これ以上ないほど当事者であり、本題じゃないか!なのに何なのだ、三銃士とは?」
まさに本命の英霊であるはずなのに雑な扱いであることにぷんすかとしているが、モードレッドとスパルタクス、立香になだめられる。
「…まぁ、いい。確かに頼りがいのある仲間と事を進められるのは生前の私にはなかった幸運だ。今度こそこの手で始皇帝を仕留める機会を得た、そう思えば他は些事だな」
「その通り!さあ、共に圧制者を抱擁せん!」
「俺を差し置いて王様ヅラするやつは誰であろうとぶちのめす!男の方の父上はまあ、王様ヅラじゃなく唯斗の彼氏ヅラしてっから許す!」
「?実際彼氏なんだからその通りだろう?」
「……、なんかもう……いいや……」
いろいろ言いたいことがありすぎて、結局何も言わなかった。遠い目をしていると、ダ・ヴィンチはちょうどいいタイミングで敵襲を告げる。
「あちらさんも整ったようだよ、急接近するサーヴァント反応。他にも、魔力反応はあるけど生体反応がないやつも引き連れてる!」
変な空気はすぐに戦闘の緊張感に切り替わる。立香とそのサーヴァント、そして唯斗とアーサー、ホームズ、ダ・ヴィンチも外に出て、やってきたヒナコたちを迎え撃つ。
ヒナコ、セイバーのほかに、どうやらオートマタらしい機械兵もいた。
「あれは…オートマタか」
ホームズが歩兵に気づくと、カルデアの目の前に現れたセイバーは頷く。
「その通り。鬨の声こそ上げないが兵は兵。これで私もようやく『将』としての本領を発揮できる」
「気をつけよセイバー。敵もまたどうやら加勢を得た様子。それも、流血に興じ戦で戯れる類いの英霊か。ああいう手合いには虫唾が走る。今度こそ引導を渡してやりなさい、セイバー。もはや出し惜しみは不要よ」
「承知しました。しからば我が秘術をもって!」
立香は一時召喚は行わず、哪吒と三銃士、マシュの5騎で戦闘を始めたため、唯斗は味方撃ちを避けるためアーサー単騎で行くことにした。
モードレッドとアーサー、哪吒が先陣を切ってセイバーと斬り合い、マシュはフォローを行い、スパルタクスはセイバーが離れたところを大ぶりの攻撃で重い一撃を入れ、荊軻は隙をつくようにして斬り掛かる。
一方、セイバーもオートマタたちを舞いのような演舞によって鼓舞し、それによって大幅に強化されたオートマタたちがこちらの戦力を徐々に分散し始めた。
「舞いによる鼓舞、仮面、将…蘭陵王か」
唯斗はその性質から、セイバーの正体が蘭陵王だと気づいた。すでに哪吒とモードレッド、スパルタクスとマシュはオートマタたちによって二分されており、蘭陵王とは荊軻とアーサーがやり合っている。
「アーラシュ!」
「おう!」
唯斗はそこで、アーラシュを呼び出した。エミヤの攻撃は広範囲に及ぶこともあるため、より荊軻たちを巻き込まない攻撃ができるアーラシュを呼んだ。
「敵は蘭陵王、中国きっての名将だ」
「ほう、あの。セイバーと別ベクトルのイケメンだな、ありゃ」
アーラシュはそう笑いつつ、その目はすでに蘭陵王を捉えている。引いた矢は、正確に蘭陵王の肩を抉った。
「ぐ…ッ!我が真名、露わになれど不覚なし!!」
蘭陵王はそれでも勢い勇んでアーサーたちとの剣戟を続ける。
蘭陵王、北斉の武将であり、中国の長い歴史の中でも、その勇猛さ、外見の美しさ、忠義の厚さ、武将としての優秀さなどまさに英雄中の英雄だ。
秦は始皇帝の死後、次の皇帝が無能であったため陳勝呉広の乱を招き、それがきっかけで帝国は崩壊、混乱を収めた劉邦による漢が始まる。間に新を挟んでから、後漢が黄巾の乱で滅亡すると、五胡十六国時代の混乱を経て、華北には北魏という王朝が成立し、南北朝時代が始まる。
北魏はやがて東西に分裂し、東を北斉、西を北周と呼ぶ。どちらが正当な北朝の後継者か争い続けた両国だが、蘭陵王はその武勇でもって北斉を何度も北周の侵略から救って見せた。
しかし、北斉の皇帝はそのあまりの武勇に蘭陵王を疎ましく思うようになり、服毒自殺を命じて、蘭陵王は涙ながらに自害した。
名将を失ったことで急速に弱体化した北斉はもはや北周に太刀打ちできず、南朝からも圧力をかけられ、やがて滅亡することになる。
そんな蘭陵王相手だったが、やはりこちらの手勢が多いことに変わりなく、再びヒナコと蘭陵王は撤退した。なんとかこの戦いもしのぎきり、ホームズはオートマタの解析に入る。
ヒナコたちもしばらくは再戦を挑まないだろうということで、午後には本来の予定である魔獣調査に入れそうだった。