人智統合真国シン−8


明け方、敵陣も休みを深めている時間を狙って、一同は武当山を一気に越えてヒナコたちの陣幕へと突入した。
先陣を切ったスパルタクスとモードレッドによって、警備していたオートマタはすべて一瞬で破壊され、すぐに出てきた項羽が二人と対峙する。

唯斗はアーサーを向かわせたほか、武当山から連なる岩山にエミヤとアーラシュを配置して、暗闇に紛れて狙撃させている。


「そちらから来てくれて手間が省けたわ。項羽様、セイバー、ここで敵を完全に放逐します」

「心得た」

「はっ!」


ヒナコの号令を受けて、項羽は殴りかかるスパルタクスと剣を構えるモードレッドを、一振りで吹き飛ばした。モードレッドは空中で宙返りをうち、スパルタクスは飛ばされた先で着地してから地面を蹴って再度飛び出す。

二人が到達する前に、アーサーと哪吒が前後から項羽に斬り掛かり、項羽の手が塞がったところで、モードレッドとスパルタクスが再び側面から攻撃を仕掛ける。

項羽は煩わしそうな素振りもなく全員を膂力で押し切って吹き飛ばすが、そこにアーラシュとエミヤの狙撃が猛攻を振るい、大量の剣と矢が項羽に突き刺さる。

一方、荊軻とマシュは蘭陵王を相手取り、アーラシュとエミヤの援護を受けながら着実に追い詰めていた。

数はこちらに有利があり、高所を取っているため狙撃も入っている。それなのに、まったく項羽はダメージが蓄積された様子もなく、互角の状態が続いていた。

立香は燃費の悪いスパルタクスがいることもあって、息を切らしている。もともと毒による発熱があったため、やや苦しそうだった。立香のことを考えれば戦闘を長引かせるわけにはいかないにも関わらず、項羽はまったく倒せる気配がない。


「…くそ、決定打がない……!」


どうする、と頭を巡らせていると、いつの間にかかなり時間が経過していたらしい、丘陵の向こうから朝日の鮮烈な輝きが夜空を引き裂いた。朝が来たのだ。

しかも、車輪の走行音も木々の向こうから聞こえてくる。


「まずい、援軍が来ちゃった…!」


ダ・ヴィンチは焦って木々の向こうを注視する。合流を阻止するために先制攻撃を仕掛けたつもりだったが、粘られてしまった形だ。


「そこまで!双方、矛を収められよ!」


そこに、木々の向こうから跳躍してやってきた女性が着地して、そう高らかに告げた。
まず蘭陵王と項羽が動きを止め、それによってカルデア側も攻撃を止める。

現れた女性は、古典的な中国の衣服を身に纏った槍兵のようで、凜々しい表情でこちらを見渡していた。
ヒナコはその人物を見て目を見張る。


「秦良玉!?後一押しなのに…!」

「芥ヒナコ!これは詔である!」


秦良玉、明末期の武将であり、中国史において唯一の女性武将である。後金が明に侵略してきた際も、求心力を失った皇帝にただ一人忠義を尽くし、たった一人で軍を率いて金を退け、遼東や四川を守り抜いた。
ただ、明という国家自体がもうボロボロであったため、秦良玉の奮闘もむなしく明は李自成の乱で滅亡。秦良玉が平定した四川も、人口300万人から1万人にまで減らされる大虐殺が横行して、独自の文化の大半を喪失する。
それでも秦良玉は、明の亡命政権に最後まで付き添ってその生涯を終えた。

しかし英霊がいないはずであるにも関わらず、なぜ17世紀の人物がいるのか。

不思議に思っていると、今度はさらに別の声がマシュの盾から響いてきた。


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