人智統合真国シン−11


異聞帯調査の四日目、またしても計画していたことを実行に移す前に、事態が動いた。

夜になって、突然、スパルタクスがいなくなったのだ。哪吒曰く、村人を率いて咸陽への行軍を開始したらしい。もとより叛逆のための戦士、始皇帝と一時的に休戦するというカルデアの決定を良しとせず、勝手に動き始めてしまったのだ。

慌てて立香たちはスパルタクスを回収しに向かい、唯斗とアーサー、哪吒はボーダーに残って警護にあたることにする。

しかし今度は、秦良玉が突然態度を翻し、調査にあたっていた兵士たちを武装させ、そのままボーダーに乗り込んできた。


「全員動かないように!兵士はこの車両を咸陽へ!カルデアの者どもは決して戦おうなどと思わないことです!」

「なっ、いきなりなんだい?!」


ダ・ヴィンチは秦良玉の突発的な行動に驚く。唯斗とアーサー、哪吒はすぐに臨戦態勢に入ったが、秦良玉は槍をこちらに突きつける。


「ここで戦闘になれば、あなたたちも嵐を突破できなくなるはず。抵抗しなければ、帝の勅令が下るまではこちらも負傷させることはしません」

「ななな、なにをいきなり?!」


ゴルドルフは槍を突きつけられて見るからに動揺している。すでに4日間が経過したことで、徐々にゴルドルフの体調も心配になってくる頃だ。
ホームズはいつも通り泰然としながらも、強引に兵士たちの輸送車に牽引されて走り出したボーダーの中で秦良玉に問いかける。


「いったいこれはどういうことかな?抵抗はしないが、事情くらいは説明していただきたい」

「天子様がそうせよとお命じになられた、それだけのこと」


すげなく秦良玉は返すが、その間にダ・ヴィンチは霊基グラフを哪吒に示していた。哪吒は霊体化してグラフを持つと、こっそりデッキから通路を抜けてボーダーを脱出した。これで立香たちもなんとかなる。

ホームズはそれを確認して僅かに安心したようにしつつ、ため息をつく。


「残念だ、あの中国史の英雄・秦良玉にこんな卑劣なだまし討ちをされるなんて」

「ふん、儒者の言葉に惑わされる私ではありません。お前たちが儒者だと知れた以上、その口の端に上るものすべて幻惑の毒と知れている」

「私たちは儒学者なんかじゃない」


どうやらカルデアは儒者として認定されてしまったらしく、それによって連行されているらしい。
ダ・ヴィンチの否定にも秦良玉は冷たく返す。


「お前たちの世界ではどう呼ぶかは知りませんが、この地にて民の蒙を啓く者はみな儒です」

「おいおい…」


あのホームズですら引いたようにするほどの曲解、極端な思想だ。
かつて始皇帝は焚書坑儒によって儒教を禁じ、儒教に関連する書物の一切を焼却し、咸陽の儒者数百名を生き埋めにした。


「民に智を与えてなんとする?惑わし、騙し、狂信と妄執に至らせるのみの書を読ませ、在るべき本当の姿を見失わせる悪魔の所業!口先だけの理想を語り、己の野心を遂げるためだけに民を扇動した叛徒ども。私は断じて許さない!」

「私たちにそんな野心はないよ、ただ交流のために共有しただけで」


どうやら、荊軻が村人に詩を吟じたことが始皇帝に知られたようだ。そして、この世界ではたったそれだけで儒と認定される。儒教という学問ではない、すべての知識と学が否定されているのだ。


「あそびだとすればなお許しがたい!儒に唆された民がどのような末路を辿るのか知りもしないで!」

「っ、まさか、儒の影響を受けた民衆は皆殺しにでもするつもりか?」


唯斗は、かつての焚書坑儒の苛烈さを考えればそれくらいやりかねないと思い至る。秦良玉は冷たい眼差しのまま頷いた。


「その通り。これよりあの村は、カルデアの者ども含め、天子様より直々に天罰が下される。お前たちもこの車両を回収したのち、安康の収容所に捕らえ、用済みとなり次第、処刑されるだろう」

「それこそクメール・ルージュとやってること同じじゃねえか…」


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