深まる関係−10


12月25日、交際し始めてから初めてのクリスマスとなった。

とはいえ、ヒーローにクリスマスなどない。以前は焦凍のために早上がりや半休などをもらうこともあったものだが、今は冬美と夏雄がイベントごとは焦凍と一緒にいることを炎司に解禁されているため、3人で過ごしていることだろう。

代わりに、応利は燈矢とともに、パトロールと、次々と起こる小規模な事件や事故への対応に追われていた。


「はいそこまで、それ以上やるなら気絶させるぞ」

「パスカル!?」

「チッ…」


繁華街でなぜか言い争い殴り合いになろうとしていた男二人を強引に引き剝がす。大声で争っていたため通行人たちの視線を集めていたが、応利の登場によって視線の種類は大きく変わっていた。


「あっ、パスカルだ!」

「パスカル〜!メリクリ〜!」


男たちはそそくさとその場を離れ、応利への歓声には手を挙げて答える。
一方、上空で確認をしていた燈矢は地上へと降下し、通行人に熱がいかないよう、落下のエネルギーを空中で足から炎を噴射して減速させつつ街灯に鉄棒の要領で掴まり静止、そこから地面に着地した。
コートがふわりと舞い、冬ということで活き活きとしている燈矢のクールな面立ちがツリーの電飾に照らされる。仕事中のため髪を立てていることもあり、表情がよく見えるが、仕事の多さにげんなりとしていた。


「どうだった?」

「向こうの交差点にいた怪しい男はほかのSKが対応にあたってる。それ以外は異常なし」

「分かった。この時期は違法薬物の取引が増えるんだよな」


急ぐ必要はなさそうだ。このままパトロールに戻っていいだろう。
そう思ったところに、一部始終を遠巻きに見ていた女性たちがこちらに声をかけてきた。


「トーヤー!パスカルとデートなの〜?」

「よかったね〜!!」


女友達で遊びに来ているのだろう、楽しそうに茶化してくる。応利は呆れてため息をつきつつ、手で追い払う仕草をする。


「パトロールだっての!」


彼女たちとて肯定を期待していたわけではないだろう。しかしそこに、燈矢はおもむろに応利の腰を抱き寄せた。
珍しくニヤリとした笑みを返しており、滅多にないファンサに女性たちの本気の悲鳴が上がる。


「きゃーっ!えっ、マジ!?」

「ファンサじゃん!?」

「トーヤがファンサした!!マジ!?」


女性たちにつられて周囲の通行人もこちらに視線を向ける。スマホもこちらに向いた。
いつにないことに、応利は燈矢に軽く肘鉄をくらわす。


「おい何してんだお前」

「ファンサしてんだろ。お前や事務所が言う通りにしてるだけだぜ?」

「俺たちが言ってんのは態度を改めろってことなんだわ」


見えやすくなっている額に強めのデコピンをすれば、「いてェ」と思ってもないことを言って額を撫でる。
そんなやり取りにも女性たちの歓声が上がったため、応利はそろそろ引き際だと踵を返す。


「ほら行くぞトーヤ。お前らも羽目外すなよ!あとパトロールだから!!」


おとなしく燈矢は隣を歩き出し、女性たちも「はーい」と楽し気に言いながら反対方向へ歩いて行った。過去クリスマスは1人でパトロールしていたため、今年はなんだか余計に気疲れしている気がする。



パトロールを終えると、待機組と交代して事務所に戻る。待機を兼ねた休憩時間であり、事務所内には二人しかいない。
静かなオフィスで、軽食を食べつつスマホを確認すれば、案の定、先ほどのことがSNSにすでに上がっていた。

「トーヤ、パスカルとイチャついてることの冷やかしにはキレないよね」という投稿が伸びており、応利はため息をつく。実際その通りだ。この事実にSNSが気づき始めているため、さらに二人が交際している疑惑(あるいは願望)を持っている者たちが活気づくだろうし、なぜか一定数いる応利のガチ恋勢と呼ばれる熱心なファンとのネットでの諍いも増えるだろう。忙しいようで何よりだ。

応利は隣の席でプロテインを飲んでいた燈矢にSNSの画面を見せる。


「さっきの、早速話題になってんじゃねぇか」

「いっそ公開してもいいけどな」

「活動のノイズになるだろ。俺たちはアイドルでも芸能人でもない、あくまで人を助ける仕事だ。その支障になるのは避けたい」

「ま、ごもっともだな」


燈矢はもともと世間のことなど一切関心がないタイプの人間だ。付き合っていることを公開しようと隠していようとどうでもいいだろう。
そもそも、その話をするなら先に話すべき相手がいる。


「第一、お互いに親への挨拶だってしてないだろ」

「…、それでいくと、エンデヴァーよかそっちの家の方が大変だろ。むしろクソ親父はあんたより俺の方詰めるぞ」


確かに、炎司は驚きこそするだろうが、認めないということにはならないだろう。というか、認める認めないという話をする立場ではない、と言うはずだ。
夏頃までは、炎司も職場での燈矢との付き合い方に迷いが見られたが、最近はお互い落ち着いている。何かあれば衝突するのも言い合うのも変わっていないが、それ自体に慣れている形だ。距離感を掴んできているのだろう。

それに、そろそろメディアが勝手に騒ぎ始めてもおかしくない。張り込みなどでそれっぽい記事を書くケースも出てくるだろうし、実際それは事実の報道だ。


「…なんか、考えてみたら、さすがに親には言った方がいい気がしてきたな。メディアで知って不安にさせるより、先に知らせた方がいいかも」

「俺も、母さんには言っておいたいい気がすンな。じゃ、ちょうど年末年始使って挨拶済ませるか」


来週には年越しだ。さすがに年末年始はある程度の休みがあるため、そのタイミングを使って両家に挨拶をするというのは十分可能だろう。

ちょっとした会話の流れだったが、タイミング的には良い機会だった。


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