深まる関係−11
年が明けて元日となった。
独特の静謐で神聖な雰囲気が街を包み、明らかに通りを走る車の数が少なく、いつもよりずっと静かな一日が始まる。
早速今日、応利と燈矢は轟家への報告を済ませることにしていた。
とりあえず普段通り、応利が朝食の準備をして子供たちが朝食を取り、久しぶりのまとまった休みを利用して家事をまとめて済ませていく。あらかじめ家政婦とおせち料理を作ってあったため、料理する手数が少ないのはありがたい。
年越しカウントダウン会場周辺でのパトロールに当たっていた関係で、応利も燈矢もやや寝不足気味だ。といっても、燈矢は朝食ギリギリまで寝ていたため、早くに起きて準備していた応利だけが目をこすっている状態である。
ただ、それくらいで参るほどやわな鍛え方はしていない。
そうしてひとしきり家事を終え、夕方ごろ、ついに応利と燈矢は炎司に話を切り出すことにした。
炎司も挨拶回りを済ませて帰宅したところであったため、応利が話があると声をかけ、そして、約束の時間に二人で部屋の前にやってくる。
さすがに応利は緊張しているが、燈矢はまったく気にした様子ではなかった。
「エンデヴァーさん、よろしいですか」
「入れ」
許可を得たため、襖を開いて二人で入る。炎司は、燈矢もいることに驚いていた。
「燈矢もいるのか」
「いちゃ悪ィかよ」
「こら」
すぐ売り言葉に買い言葉となる。たしなめつつ、応利と燈矢は炎司の前に正座した。
「それで、話とはなんだ」
改まって二人で話に来た、ということで、炎司も何を言われるのかと身構えているように見える。実際、こんなことは初めてであり、話す内容も衝撃的なものとなるだろう。
「その…単刀直入に申し上げますと、俺と燈矢は、去年の1月から1年にわたり、交際しています。そのご報告をしようとお時間をいただきました」
「………は?」
しばらく間があった。言葉が素通りしたのだろう、まさに炎司は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
徐々に言葉を理解して、動揺が表情に浮かぶ。
「な、交際、とは、つまり、その、そういうことか」
「はい。恋人、というやつです」
「だがお前らは男…っ、いやそれはこの際いい、なぜ燈矢なんだ」
やはり自分の息子と居候の男が、というのは不快だろう。答えようと思ったところに、炎司が言葉を続ける。
「燈矢でいいのか、お前ならもっと良い女性がいるだろう」
「…え、」
「燈矢、お前に応利をちゃんと幸せにできるのか」
なんと、出てきた言葉は応利の想定と若干違っていた。
そういえば、挨拶をしようと決めた日に燈矢も言っていた。燈矢の方をむしろ詰める、と。
それがこういうことなのだろう。どちらが息子か分からない状態だ。
さすがの燈矢も呆れが勝るようだった。
「なんだよ、失敗作には不釣り合いだって?」
「なッ、そういうわけでは…、」
燈矢の突き刺すような嫌味に、炎司は言葉に詰まる。怒らなかったのは、自分の罪を久しぶりにまざまざと目の前に提示されたからだろうか。
嫌な沈黙が落ちそうになったが、応利はきちんと伝えようと思っていたことを口に出す。
「…ただあなたに見て欲しかった子供が、やがてあなたを否定するためにヒーローを目指すようになり、次第に俺とヒーローになりたいから頑張るのだと言ってくれるようになりました」
「…、」
ちょうど6年前、燈矢に対する罪から逃げ、目をそらし、家族を地獄に追い込んだことで、燈矢は死にかけた。その罪を、炎司もきっと、決して忘れたことはなかった。
それでも、燈矢は前を向いてここまで努力を続けたのだ。
「俺のために、あなたへの憎しみすらも脇に置いてここまでやってきた。その強さに惹かれました」
応利の言葉に、炎司も燈矢も沈黙する。少しして、炎司はなんとかといった様子で口を開いた。
「俺には認める・認めないなどと言う資格はない、好きにするといい」
「…はい。ありがとうございます」
深く頭を下げて礼を述べる。これも予想通りの言葉だった。消えない過去への罪の意識は、炎司が父親として振る舞うことを許さない。
話は済んだため、応利は燈矢と立ち上がり部屋を出る。しかし、応利の後に続く燈矢は、襖を閉める前に、意外にも炎司に声をかけた。
「…あんたのこと、許すか許さないかで言えば、一生許さねェと思う。だが、応利と一緒にいると、許す許さないの二択じゃねェんだとも思える。俺は、それでいい。それだけだ」
そう言い残して襖を閉めた。二人の間の断絶そのもののように固く閉じられた戸ではあったが、それでも、燈矢の言葉には、ただの憎しみだけではないという意思が示されていた。
応利はつい、燈矢の手を握る。燈矢も握り返して、二人で一緒に廊下を歩き出した。
憎悪を解消したわけではなくとも、憎悪を乗り越えた。そんな燈矢の強さが、ただ、愛おしかった。