深まる関係−12


1月2日、もともと実家に帰省しようと思っていた日に、応利は燈矢と実家へ向かった。
事前に紹介したい人がいると言ってあったため、両親もどんな用事か察してくれていることだろう。

ちなみに、炎司のほかに冬美と夏雄にも改めて報告したほか、冷にも報告しに行ってある。
もともと言ってあった冬美はもちろん、夏雄も「今更かよ」と笑って受けて入れてくれた。
さらに、冷も「てっきりもう付き合っているんだと…」と逆に驚いていた。これはむしろ、炎司があまりに鈍すぎるのではという気がしてくる。

さすがに焦凍にはまだ早い話のため、焦凍にはまたいつか話すつもりだ。

そうして応利の実家がある都内の住宅街にやってきた二人は、黒いマスクだけの変装とはいえ、普段静岡県で活躍しているヒーローであることもあり、誰にも気づかれずに応利の実家である一軒家に到着した。

応利の両親はいたって普通の人間であり、同性と知っても特に拒絶することはない。だが、やはり燈矢は少し緊張した面持だった。きちんと土産として静岡西部の名産・高級メロンを持参している。

1年に1度しか使わない家の鍵を開けて中に入って声をかける。


「ただいまー」

「あらあら、おかえりなさい」


するとすぐに母がリビングから出てくる。遅れて父も顔を出した。
玄関に入りつつ、後ろから燈矢を招き入れる。

オフのため髪を下ろしているとはいえ、その美貌が褪せるはずもなく、あまりに端正な顔立ちに両親が固まった。


「こちら、俺が居候してるエンデヴァーさんの家の息子さん、轟燈矢君。実は1年前から付き合ってるんだ」

「……えっ?!?!」


見た目の驚きからの、応利の追撃に両親はのけぞるように驚いた。素っ頓狂な声を上げ、応利と燈矢を意味なく交互に見やる。

燈矢は普段なら滅多にしない、余所行きの笑顔で挨拶をした。


「轟燈矢です。エンデヴァーの長男で、今月19歳になります。応利さんが職場体験でエンデヴァー事務所に来ていたときからお世話になっていて、昨年からお付き合いさせていただいています」


さすが良家の子息だ、こういうときの基本的な礼儀というものはやはり身についている。
洗練された仕草と丁寧な口調に、両親も「これはこれは」と腰を折る。
燈矢がメロンを渡せば恐縮しながら受け取り、中へと通した。

リビングに入ると、ダイニングテーブルには高級そうなケーキと紅茶のセットが置かれていた。恋人を連れてくる、と分かっていたからか、若干彼女を想定していそうなセレクトだ。もちろん、来客にケーキは一般的なもてなしであり、特に深い意図はないだろう。

応利は燈矢と並んで椅子に座り、向かいに両親が座る。両親が座ったのを確認してから、燈矢が口を開く。


「改めまして、このような元旦にお招きいただきありがとうございます。仕事柄とはいえ、年明け早々に訪ねてしまい申し訳ありません」

「いえいえそんな…息子も年末年始くらいしか帰省しませんので、むしろ轟さんもご家族の団らんを差し置いてきていただいてしまい申し訳ないです」


母が代表して応じる。燈矢がここまで丁寧な口調で喋っているのは初めて聞いた。バーニンあたりが見たら腹を抱えて笑うだろう。
応利はそろそろ自分からも話しておくべきだと切り出す。


「いきなりの報告でごめん。ただ、メディアの注目も高くなってきて、変に報道で心配かけるより、きちんと先に伝えておこうと思ったんだ」

「そうなの…東京でもテレビで二人を見かけるくらいだもの、確かにそうね。びっくりはしたけど、二人がいいなら私からは何も言うことはないわ。あなたは?」


温厚な母は二人に理解を示し、父も鷹揚に頷いた。


「僕も、二人の人生に口をはさむつもりはないさ。むしろ、もう6年くらい轟さんのお宅にお世話になっているからね、こちらこそ長い間お世話になってしまい申し訳ない。私たちこそ直接出向いてお礼に伺うべきなんだが…」

「いえ、それには及びません。率直に言って、うちはその、父があんななので、家庭はあまりうまくいっていないんです」

「そうか…ではせめてお土産を持って行ってくれ」


家に問題があるため挨拶は不要、という燈矢の言葉に、本来ならうろたえてもおかしくない。しかし父は動じずに答えた。両親のそういう謎の胆力と包容力は見習いたいところだ。
燈矢も、あっさりした二人に少し驚いたあと、小さく笑う。先ほどの仮面のようなものではない、本心からのものだ。


「…お二人を見ていると、応利さんがなんでこんな素敵な人になったのか、よく分かる気がします」

「なっ、」

「まぁ!聞いた?あなた」

「あぁ、それはとても嬉しい」


さすがに応利の顔に熱が上がる。お世辞や挨拶としてではなく、本気でそう言っていることが分かるためだ。誤魔化したいところだったが、燈矢は真面目な表情をしているため、黙って続きを待つ。


「…轟家は、きっと誰が見ても、ひどい有様でした。でも、そんな厄介事ばかりの家を、応利さんがずっと支えてくれた。弟や妹たちにも寄り添ってくれたし、僕がこうしてヒーローになれたのもすべて応利さんのおかげです。だから、好きになりました。一緒にいたいと、僕も応利さんを支えたいと、そう思っています」


そう言って、燈矢は深く頭を下げた。誰かにこうして頭を深々と下げているところは初めて見た。


「なので、認めていただきありがとうございます。応利さんがくれた恩は一生かけても返せないけど、一生かけて、応利が俺と出会ってくれた選択を正しかったと思ってくれるような、そんな幸せを二人で育みます」


感情が滲んでいるのが、少し乱れて敬称も一致していない言葉から分かる。応利を大切だと思う感情が、応利を産み育てた二人の気質にも向いているからこそ、燈矢は、こうして真摯に両親に向き合ってくれている。

ぐっと込み上げるものがあったが堪える。一方、母は少し目じりを拭っていた。代わりに父が答える。


「こちらこそありがとう、燈矢君。息子のこと、頼んだよ。そして、息子とともに、ヒーローとして、お互いに支え合い、誰かの助けになってほしい」

「はい、必ず」


お互いの感情をお互いに共有することとは、まったく違う。それぞれの親にそれを伝えるために言葉にするのは、認めてもらうためだけではなく、そんな相手に出会わせてくれた互いの親への感謝を伝えるためでもあるのだろう。

お互いに愛情を伝えあうだけでなく、こうして親にそれを伝えた今、二人の間の愛情は、より深く、確かなものになっていた。


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