夢が叶った先に−1


それぞれの両親に挨拶をしたことで、二人の関係は一段深まった。
だがそれだけでなく、応利には今年、もう一つの大きな変化がある。

それは、4月からの独立だ。
今年の4月をもって、ついに応利はエンデヴァー事務所のSKを退職し、自分の事務所を持って独立することになっているのだ。

昨年のうちから炎司には独立することを伝えてあり、自分でいろいろ済ませるつもりだったのだが、なんだかんだ炎司がいろいろと手を回してくれたため、かなり楽に独立することができる。
応利の独立を繰り返し推奨してきたヒーロー公安委員会も、独立の届け出を真っ先に通してくれた。炎司もさすがに呆れていた。

事務所の場所も決まり、物件の契約や什器の購入と搬入、内装工事など順調に進んでいるため、3月のうちには準備はすべて完了するだろう。

そんな中、1月中旬にさらに新たな出来事が起きた。
ずっと轟家で世話をしていた家政婦がぎっくり腰になり、家政婦業務から外れることになったのである。急なことであったため、炎司から事務所で話を聞いた応利は、独立と同時に一人暮らしする方向で考えていたのを取りやめ、もう少し轟家に世話になりつつ、全面的に家事を担うことになった。


「というわけで、急だけどお手伝いさんは今日付けで契約終了となった」


居間に燈矢、冬美、夏雄を集めて、応利はそれを伝えた。
平日なのに家にいなかったことを不思議に思っていたようで、事情を知って合点しつつ心配そうにしていた。
冬美は早速応利に尋ねる。


「お手伝いさん、大丈夫なの?」

「しばらくはリハビリ必要だろうけど、今後の生活に影響はないって。ただ、こういう家事代行関係の仕事は負担が大きいから引退するらしい」

「じゃあ、新しいお手伝いさん雇うの?」

「いや、俺がしばらく家事をやることにする」


もともと一人暮らしのことは、物件次第ということもあったため、まだ子供たちに伝えていなかった。そのためそこには触れず、応利が家事を担うという方針から話す。


「もちろん、冬美と冷さんの衣類は扱えないから、そこだけは冬美に頼むことになる」

「そこだけって…さすがにヒーローとして活動してるのに家事もなんて、応利君の負担が大きすぎるよ。私も手伝う」

「俺も手伝うよ、任せきりにはできねえし」


冬美、夏雄はすかさず手伝いを買って出てくれる。だが応利は首を横に振った。


「冬美は受験が終わるまで、自分とお母さんの洗濯以外はしなくていい。とりあえず受験に集中してろ。大学入って落ち着いてきたら、少しずつ一緒にやっていこう」

「…うん、わかった」

「夏雄も、高校受験終わるまでは、ちょっとした手伝いくらいは頼むかもだけど、本格的に手伝ってもらう必要はない。大丈夫、エンデヴァーさんもそのあたりの調整はしてくれる」

「…、応利君がそう言うなら…」


冬美も夏雄も納得した様子ではなかったが、大人として応利の譲れない一線であることも長い付き合いであるため分かっており、食い下がることはしなかった。
一方、応利は燈矢に目を向ける。


「燈矢はがっつり手伝ってもらうからな」

「仕方ねェな」


そう言いつつ、どこか嬉しそうにしている。相変わらず、こういうときに頼られると満更でもないようだ。



しかしその後、燈矢は料理系の仕事は一切できず、台所が悲惨な状況になりかけたため、料理目的では台所を出禁とした。食事の準備については応利のワンオペ、受験が終われば冬美の協力を得てやっていくことになるだろう。

代わりに、燈矢には買い出しや力仕事全般、車の運転、風呂掃除などを担当させることにした。
台所業務のアサインを外されたことに憮然とした様子だったが、一緒に買い物に出ると機嫌が上向く。

燈矢の運転でスーパーマーケットにやってきた二人は、燈矢がカートを押して、応利が次々と必要なものを籠に入れていく。
別に重いものを持てない応利ではないが、轟家は人数がそもそも多い上に、本格的な成長期でモリモリ食べる夏雄、もともと食べる量が多い燈矢と炎司という3人がいるせいで、買い物1回あたりの量がとにかく多い。
単純に個数が多くて大変だったため、燈矢がいるのは助かるのだ。

野菜を吟味しながら籠に入れていくと、それを見ていた燈矢はおもむろに口を開いた。


「なんか、新婚みてェだな」


何を言うかと思えばそんなことで、応利は苦笑する。もう付き合って1年だというのに、そういうのを感じるのがこんなスーパーの生鮮食品売り場というのが面白かった。


「そっか。嫌と言うほどやるんだ、すぐ慣れる」

「慣れるくらい一緒に来られるってことだろ」


しかし、応利の返答に対して返された言葉は、油断していたところで聞くにはストレートすぎた。

最近、心の余裕が広がったのか、燈矢の感情表現がやたらストレートになってきている。そのため、準備できていない状態で聞くと、思い切り刺さってしまうのだ。


「…そーだな」

「お、照れてンの?かわいいな」

「あーうるせぇ!次いくぞ!」


そして燈矢もそれに味を占めている。多用せずにふとしたときに出してくるあたり、たちが悪い。
それでも、そういう言葉ひとつひとつに嬉しくなってしまうのだから、最初から応利の負け戦だった。


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