夢が叶った先に−6


挨拶を終え、燈矢が運んだ段ボールを応利の車に乗せ、事務所を出発する。

炎司は家でも会えるとはいえ、長い間通っていた場所を後にするというのは、やはり少しはしんみりとしてしまう。燈矢はまったくそんなことはなさそうだった。

車で走ること20分ほどで、隣町のターミナル前にやってきた。新幹線の停車駅ということで、駅前には百貨店やホテルなどが立ち並んでおり、繁華街の規模も大きい。

応利の事務所は、そんな駅前一等地の高層ビルに位置する。見栄えがいいのは高層階だが、飛行するわけではない応利は地上階や地下駐車場にいち早くたどり着ける方がいいため、低層階をあえて選んでいた。
その代わり賃料がいくらか安く、より広い床面積を借りられている。

地下駐車場に契約してあるスポットに車を停める。すぐ近くにエレベーターホールがあるのはオーナーの配慮だ。現場にすぐ急行できるようにと場所を確保してくれた。
車を降りると、燈矢が段ボールを再び持つ。


「荷物ありがとな」

「大したことねェ。それより早く行くぞ」

「はいはい」


燈矢が事務所に来るのは初めてだ。つい最近まで荷物がごちゃごちゃしていたり、引っ越しシーズンでいくつかの什器の到着が遅れたりしていたためだ。

エレベーターを上がってすぐ、6階で降りる。洗練されたデザインの廊下を進むと、すぐに応利の事務所が姿を現した。
「パスカルヒーロー事務所」と銘打ってある玄関は、IT企業のようなシンプルなデザインであり、受付の電話機が一つ置いてあるだけだ。

指紋認証で解錠すると、すりガラスの自動ドアが開き、二人で中に入る。
そこはすぐ内廊下となっており、正面には観音開きの扉があり、開け放されている。


「入ってすぐが応接室。来客はダイレクトにここへ通すから、使用中以外は開放してる」

「意外と眺めいいンだな」

「一応6階だしな」


観音開きの大きな扉が開け放されていることで、開放感がある。応接室は、大き目のローテーブルを囲むように4人掛けのソファーが向かい合い、短辺側には1人掛けのソファーが向かい合うため10人が着座できるようになっている。
いずれもシックなデザインであり、部屋の四隅には観葉植物、奥の壁はガラス張りで大通りが見渡せる。6階の高さと6車線の大通りということもあり、向かいの高層ビルの圧迫感はない。


「右は倉庫だけ。大部分は左側にある」


玄関は事務所スペースの右寄りに設置されており、執務室など主要部は内廊下を左に進んだところにある。
応利がそちらに歩き出すと、燈矢はあたりを見渡しながら続く。

応接室の隣の部屋も観音開きの扉になっており、そこを開くと広い執務室に入る。
入って目の前の右側には軽いシッティングスペースであり、ガラスのローテーブルと二人掛けのソファーが二組向かい合っている。

左側にはデスクが一つあり、部屋の奥にさらにもう一つデスクがある。奥の壁は応接室同様にガラス張りだ。


「燈矢のデスクは手前、俺のが奥のやつ。デスク側の棚は自由に使っていい。段ボールはとりあえずその辺置いといて」

「思ったより広いな」

「実際見ると広く感じるよな。いや、独立したてとしては広い部類だけど」


燈矢は床に段ボールを置くと、そっと応利を後ろから抱き締めた。応利の肩に顔を埋めながらつぶやく。


「…ずっと夢見てた」


先ほど炎司に言っていたように、燈矢はいつしか、応利の隣に立つためにヒーローを目指すようになっていた。
燈矢は立場こそSKということになっているが、実態としては、応利と燈矢の二人組事務所に近い。燈矢は基本的になんでもできるため、あらゆる業務を二人で分担するつもりだ。


「激務だけど文句言うなよ」

「文句は言うけど全部やるっつの」


それも分かっている。口でいろいろ言いつつ的確にすべてこなすのが燈矢だ。

応利はしんみりしないよう、いったん体を離してから左側の壁にある扉を開く。


「廊下からも入れるけど、こっちが給湯室。くれぐれもお前は料理目的で使うなよ」

「信用ねェな」

「そりゃそうだろ…」


火災を起こされたら堪ったものではない。
給湯室は小規模なキッチンであり、コンロ、シンク、電子レンジ、冷蔵庫と一通りそろっている。棚にはすでに紅茶や緑茶の茶葉、茶菓子、カップ麺などが置いてある。

いったん廊下に出て、次に執務室の向かいに並ぶ2つの扉をそれぞれ開ける。


「手前がトイレ、奥が更衣室。更衣室からはシャワー室に入れる」


トイレは普通の洋式の個室が2つ並んでいる。
更衣室は5庫あるロッカーが左の壁際に鎮座しており、右の壁にシャワー室につながる扉がある。シャワー室は壁で分かれた2つのブースが並ぶ。

そして最後に、内廊下の突き当りの扉を開けて中に燈矢を通す。


「んで、最後にここが仮眠室。シャワー室は仮眠室からも入れる」

「ホテルじゃねェか」


20畳ほどの広さの部屋にダブルベッドが置かれ、衣装棚や化粧台も揃い、ホテルの寝室のようだった。応接室や執務室と同じ外壁側はガラス張りになっているが、こちらはちゃんと厚めのカーテンがかけられている。


「これでラブホ行かなくてよくなるな」

「アホ」


思っても言わなかったことを燈矢が口にしたため、応利はさすがに肘鉄を入れる。
浮かれすぎだろ、と思った応利だったが、設計時、仮眠室とシャワー室を直通できるようにした目的はそういうところにあったのは秘密だ。


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