夢が叶った先に−8


車で移動すること2時間と少し、現場近くに到着した。到着したときには夜になっており、少し風が冷たく感じる。

高速道路のPAに車を停めると、名古屋市内から派遣されたヒーローと、東京から派遣された公安職員たちがいた。さすがに委員長本人は来ていない。
そしてもちろん、岐阜県警の警察車両が大量に停車しており、PAは一時的に閉鎖されている。

すでにネットは人質事件の話題でもちきりであり、いくら配信を停波しても別のツールで配信が続き、それをネット民も追いかけ続けている。

映像では、廃墟の旅館のロビーで少女が椅子に括り付けられており、目と口をタオルで覆われている。映像に映る犯人の数は少なく見積もっても10人ほどの集団だ。

旅館の周囲は立ち入り禁止となっているが、メディアはPAに隣接する道の駅に詰めかけており、ここから山道を登った先にある山中の旅館の建物は上層部だけが森越しに見えている。

応利は現場指揮の警察のところへ向かう。


「ヒーローパスカル、トーヤ現着しました。状況は」

「変わりありません。犯人たちは全員建物内に留まっています」


ワゴン車のバックドアを開け、中のPCを囲む刑事たちに加わる。PC画面には旅館のエントランスを映すカメラの映像と、犯人たちの配信映像が流れていた。視聴者数は15万人を超えている。刑事の言う通り、犯人たちは吹き抜けの広々としたロビーにいるようだった。


「建物の所有者は不明。特例法に基づき、所有者不明物件の損壊許可が名古屋地裁より出ています」

「了解。トーヤ、暗視ゴーグルは持ってるな」

「あぁ」


応利は事務所から持ってきていた備品のうち、暗視ゴーグルを燈矢につけさせる。


「俺は正面から県道を徒歩で移動、旅館に突入します。トーヤは暗視ゴーグルにより森の中を先行して移動、吹き抜け2階の天窓で待機させます。戦闘開始とともにトーヤは天窓からホールに侵入、人質を挟むように犯人を挟撃します」

「人質が危険では?」

「問題ありません。トーヤ、行動開始」


燈矢は頷いて、すぐに走って森の中へと入っていった。


「犯人制圧後、無線で回収を要請します」

「了解しました」


詳しい作戦は聞かず、刑事たちはそれを了承する。
するとそこに、身なりのいい中年の夫婦が駆け寄ってきた。


「パスカル!!」

「あなたたちは、松野社長ご夫妻ですか」

「はい、どうか娘を、娘をお願いいたします…ッ!」


高そうなスーツなのも構わず、父親である松野社長は膝をついて懇願する。妻の女性も泣きながら夫に寄り添うように地面に膝をついた。


「まだ10歳なんです、どうか、どうか…っ!!」

「報酬はいくらでも払いますから、お願いします…!!」


応利は二人が泣きながら言っているからこそ怒ることはなかったが、すぐ金の話が出てくることは気分が良くなかった。だがそれをここで非難するのは可哀想だ。


「必ず助けます。報酬は規定の額が国から支払われますので、私的なものは受け取れません。それよりも、娘さんを解放できたら、ただ抱き締めてあげてください。お金や、言葉よりも、親の体温が一番大切なんだと思います」


父親に見て欲しいと切望していた燈矢の幼い頃が思い出される。ただ、親は子供を抱き締めてあげればいいのだと、それが一番大切な場面もあるのだと、応利は思っている。

そこに無線が入る。


『こちらトーヤ、県道は100メートル手前まで監視なし。このまま森林を抜けて側面から上に上がる』

「了解。俺も今行く」


無線に応答してから、応利は刑事たちを見渡した。


「では俺も行動を開始します。引き続き、旅館施設外観のメディアによる撮影を厳禁としてください」

「はい、お気をつけて」


応利は頷いて走り出す。街灯に照らされた県道に入り、坂道を駆け上がる。その先にはすでに、廃墟となった旅館が黒々と不気味にそびえたっていた。


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