それは地獄のような−7


「ということで、今日からここに住みます」

「えーっ!!」


早速次の日の夜、応利はある程度の荷物を持って轟家にやってきた。事前に冷には伝えてあったが、子供たちにはついでに今日まとめて話すことになっていた。

居間に集まっていた燈矢と冬美、夏雄に事情を説明すれば、冬美と夏雄の驚く声が響く。
そしてすぐに、冬美と夏雄が駆け寄って腰あたりに抱き着いてきた。


「すごい!本当!?」

「やったー!!どこで寝るの!?俺たちの部屋!?」

「空いてる部屋を使わせてもらうことになってるよ」

「うちから学校行くの?」

「そうだよ。お手伝いさんと一緒に、俺も朝飯とか休みの日のご飯とか作るつもり」

「すげーっ!!」


テンション高く喜ぶ様子に、冷と家政婦も微笑ましそうにする。食事については、経済的に完全に世話となる代わり、少しずつ分担や協力によって応利も関わるつもりだった。特に、家政婦は休日はいないため、休日の食事については冷が用意している。それを応利が主に手伝うつもりだった。


「冬美ちゃんと夏雄君にはおうちの案内してもらおうかな」

「分かった!」

「今からやる!?」

「荷物置いてからね」


テンションが振り切れているのを落ち着かせるべく、いったん二人を居間に残して指定された部屋に荷物を置きに行こうとすると、黙って見ていた燈矢が荷物を一つ取った。


「手伝う」

「ありがと、助かる」


廊下に出て二人で客室に向かう。使っていなかった部屋とのことで、あらかじめ家政婦が掃除してくれておいたそうだ。
ちなみに燈矢には、事前にチャットで知らせてあった。今となっては驚く顔を見てみたかったとも思う。

一気に静かになった薄暗い廊下で、燈矢が口を開く。


「荷物ってこれだけ?」

「当面はな。下宿先から少しずつこっちに荷物移して、満期で解約するつもり」

「それにしても、休まる暇ないだろ、家まで一緒ってなったら」


インターンに家までとなれば、ずっと忙しくなるのでは、ということだろう。確かに、心休まる時間というのは限られそうだ。ただ、そこはあまり気にしていなかった。


「下宿先で1人なのも若干寂しかったし、これはこれで楽しいよ。君の訓練見るのもやりやすくなるしな」

「ふーん」


ぶっきらぼうな言い方をしているが、声音に嬉しそうな様子が滲んでいる。今月でようやく13歳、この4月に中学2年生になるということもあり、見るたびに背が伸びていたが、だんだん目線も近づいてきていた。それでも、こういうところはまだ子供っぽさが抜けていない。


自室となる部屋にいったん荷物を置き、荷ほどきなどは週末に回すとして、冬美たちに家を案内してもらったところで夕食となる。
今晩は冷が焦凍のところに行っており、食卓を囲むのは応利と他の子供たちだ。

なお、応利が暮らすにあたり、冷は焦凍と一緒に食べる機会を増やすことにしていた。やはり年齢的には、それこそ愛着障害になってしまうため、なるべく焦凍と一緒にいる必要がある。

そして子供たちが就寝し、応利も学校の課題を終えて洗面所で寝る支度をしてから自室に戻ろうとしていたときだった。

暗い廊下を歩いていると、子供部屋から明かりが漏れているのが見えた。天井の電灯ではなく床に置く室内灯をつけているようで、話声も聞こえてくる。
子供部屋は男女で別々なようで、寝室を兼ねている。冬美も小学校6年生のため自然なことだ。焦凍だけは冷と同じ部屋で寝ており、まだ自室はない。
あの部屋は燈矢と夏雄がいる子供部屋だが、会話といっても聞こえてくるのはほとんど燈矢の声だけだ。

少し空いている襖から覗くと、燈矢が隣の布団に入っている夏雄の体を揺すっていた。


「なぁ聞いてる?夏くん」

「もー…聞いてるよー……」


明らかに夏雄は眠そうだ。それでも燈矢は話しているが、内容は炎司への怨嗟にも似た不満の数々だった。自分たちを失敗作として徹底的に隔離し、自分たちのことをまったく顧みないことを非難しているが、夏雄は眠れなくてしんどそうにしていた。
見かねて応利は襖を開く。


「こら、燈矢君」

「あれ、応利君だ」


小声で声をかけると、夏雄は助けを求めるように見上げる。
しゃがんで夏雄の頭を撫でて布団を肩までかけてやってから、燈矢の肩を叩く。


「夏雄君眠そうだからそこまでな。俺が聞いてやるから」

「ほんと?じゃあおやすみ、夏くん」


燈矢は何でもないように切り替えて立ち上がる。夏雄はひらひらと手を振って、すぐに寝息を立て始めた。本当にギリギリだったのだろう。
廊下を歩きながら、注意ではなく優しく諭す。


「夏雄君はまだ小学生なんだから、あんまり遅くまで起きられねぇんだぞ。これからはそういうの、俺が聞いてやるから俺んとこ来い。いいな」

「はーい」


燈矢は意気揚々と応利の部屋までやってきたが、応利と一緒に布団に入り、炎司の悪口を言い始めて僅か5分で眠りに落ちた。
応利としては長丁場を覚悟していたが、あっさり寝てしまって拍子抜けする。

安心したような顔で眠る様子を見て、安心する場所になれているのだろうか、と考える。親や兄の代わりになるようなつもりはない。だが、不安定な燈矢の心が少しでも安定するには、頼れる存在が必要だ。
自分がそうなれているのかは分からない。そうなるべきなのかすら分からない。ただ、そうありたい、と思っている自分の心が答えだった。


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