同じ地平に立つ−6
年が明けて1月、成人の日となった。
燈矢はこの1月で20歳となり、成人の日の対象である。だが、当然のように式には出なかった。そこは想定通りであり、応利としても驚きはない。同級生はお近づきになれるチャンスがなく残念に思っているかもしれないが、修学旅行すら行かなかったような燈矢が成人になったとて変わるはずもなかった。
1週間もすれば誕生日であり、燈矢はそこで夕食のリクエストをしていたため、この日は普通の食事を終える。
すっかりいつもの休日といった中で、応利は廊下で炎司に呼ばれた。手招きをされ炎司の部屋にやってくると、小さな箱を手渡された。
「エンデヴァーさん、これって…」
「燈矢に渡してくれ。成人の祝いだ」
「…、」
一瞬、自分で渡すように言おうかと迷った。だが燈矢が受けとるとは思えず、それなら確実に渡るだろう応利からの方が合理的ではある。
なんであれ想いを届ける方が重要であり、とりあえず応利は受け取った。
「祝い酒、なんかもしないんですよね」
「あぁ。燈矢を見ないと決め、実際に見てこなかった。今更父親として振る舞うことはできない」
そこは前から変わらなかった。親としての罪は、親としての喜びを求めないことに帰結する。そう決めている炎司に、それは違うとはとても言えない。
「…父親としてではなく、1人の大人、ヒーローとして、ということでもですか」
「文脈を変えたとて、俺が親としての義務を果たさなかったことに変わりはない。それともお前は、俺が1人の大人として尊敬に足ると思っているのか?」
大人と大人、ということでもダメかと聞いてみたが、炎司の言う通り、文脈を変えたところで炎司の罪も過去も変わらない。それに、炎司が試すように聞いてきたことも確かにそうだ。
「まぁ、ヒーローとしては尊敬してますけど、人としては本当ダメですもんね…」
「フッ、お前は変わらんな」
ヒーローとしてはともかく、父親としてどころか人間としてもてんでダメな人間だ。確かに、1人の大人として晩酌を、なんてことを言えた立場ではない。
ためらうことなく頷いた応利に、珍しく炎司は小さく笑った。こういう態度をとっても応利にまったく怒ってこなかったのは、思えば、そういうダメな部分を思い切り見てきたからだろう。隠す必要がなければ否定する必要もなく、怒りの元にはならない。
40代になって感情の起伏がようやく落ち着いてきたようにも思う。20代の応利にそんなことを思われるなという話だが。
「…分かりました。ではこれだけ確かに渡しておきます。モノに罪はない、とか言うでしょうけど、受け取ると思いますよ」
「あぁ」
「ま、モノ自体に罪はねェしな」
「ほんとに言ったな…」
炎司に託された祝いの品を、燈矢の部屋に行って手渡すと、まさかの予想通りの感想が飛び出した。自分の中の燈矢の解像度が高すぎる。
「そういう風に言うだろうなとは思ってた」
「俺のことよく分かってンじゃねェか」
燈矢はそれに気をよくしたのか、包装された箱をその場で開ける。炎司からのものと分かって受け取っただけでも二人の関係においては進歩だ。
出てきたのは万年筆で、かなり高額なものだ。
「うわ、すげぇなそれ…いくらすんだろ…」
「ふーん。いらなきゃ売るだけだとは思ってたが、売った方が金にはなりそうだな」
「手入れも大変だからな、いいヤツは。でもめちゃくちゃ書きやすいと思うぞ」
「今時手書きで何書くんだよ」
ほとんどのものが電子化されている昨今、確かに万年筆の出番はない。そういうところも古風な考えの男らしいチョイスだった。
燈矢は反発から売ることを検討しているのではなく、単にいらないから売る、と考えているだけのようだ。
しかし燈矢は、包装を戻してから引き出しの中にしまった。
恐らく、嬉しいという感情はさすがにないだろう。だが、父の祝いの気持ちを、素直に受け取ることはできているようだ。もう少し前までだったら、炎司のせいで死にかけたにも関わらず成人を祝うのか、という話になっていただろう。
夢を叶え、二人で生きていく道筋が立っている今だから、受け取ることができたのだ。